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信州ダービーで痛感、攻撃スタイルの進化を

勇気を持って前へ―。
 8月末からサッカーJ3のAC長野パルセイロを指揮する高木理己監督が掲げるスタイルはいたってシンプルだ。しかし、シンプルだからこそ貫き通すためには絶対的な強さが求められる。その現実を突き付けられたのが、今季3度目となった第31節(10月15日・サンプロアルウィン)の松本山雅との「信州ダービー」だった。
 天皇杯の切符を懸けた5月の県選手権決勝とリーグ戦(長野Uスタジアム)で宿敵を連破したことで生まれた〝過信〟もあっただろう。加えて、選手たちは1万2457人の観衆が詰めかけたスタジアムの雰囲気に圧倒されていた。その状況下で、ずたずたにされたプライドを取り戻そうと松本山雅の選手たちが、気迫を前面に出して襲いかかってきた。
 「(信州ダービーの)雰囲気もあって連係が良くなかった。みんなボールばかりに目がいってしまっていて、周りが見えていなかった」(MF原田虹輝)
 「相手に勢いがあったのかもしれないけれど、そもそも、落ち着いて自分たちらしさを出せていれば良かった」(MF山中麗央)
 立ち上がりから松本山雅のプレスに圧倒されて前進もままならず、前半はシュート0本。後半はチャンスもあったが、球際で競り負けて流れを引き寄せきれないまま、松本山雅に合計24本のCKとFKの集中砲火を浴びる。後半41分にFKから均衡を破られて先制されるなど、試合全体を通して「前へ」のスタイルを体現できないまま屈した。

 苦戦の〝前兆〟はあった。松本山雅戦前の八戸戦(1-1)と琉球戦(2-2)はいずれも引き分け。高木監督が落とし込むハイプレス、ハイラインの攻撃サッカーは破壊力抜群の一方、シンプルゆえに対策されやすい欠点もある。前線から守備で襲いかかっても、相手にロングボールを蹴られて肩透かしを食らう。得意のショートカウンターを封じられると、今季のAC長野は前進するための引き出しも少ない。松本山雅戦では、その課題がもろに浮き彫りになった。
それでも、高木監督が「前へ」にこだわるのには理由がある。「もし、J2に昇格できたとしても、対戦する相手は格上ばかり。(試合では)ボールの主導権は握れない。そうなると、自分たちでボールを奪う力、前進していく力が必要になる。その力を身につけていなければ昇格できたとしても生き残れない。また(J3に)帰ってくることになる」と語る。

 信州ダービーの次節のFC大阪戦も力なく敗れ、今季のJ2昇格は絶望的だ。来季、どれだけのメンバーが残るかは分からない。ただ、遠回りのようでも、粘り強く土台を築く取り組みが必要なのかもしれない。「型(スタイル)を持って上がっていかなければいけない。相手が対策をしてきても、それを上回る力が必要。型があるから型破りができる。型なしにはなりたくない」と高木監督。泣いても笑っても今季は残り1カ月。AC長野はどんな姿でJ3参戦10年目のシーズン最終盤を駆け抜けるのか。