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苦難のシーズン 変革は道半ば

松本山雅FCの2023シーズンが終了した。38試合で15勝9分14敗(勝点54)となり、過去最低の9位。霜田正浩監督を迎えて新たなスタイルにチャレンジしたが苦い結果に終わり、課題の整理と来季への改善が求められている。

 「ローマを1日で作りたかった」。シーズン終了後、霜田監督は取材に対してそう答えた。指揮官が描き出した基本的な設計図は、ボールを動かす時間帯も作りながらクロスからゴールを量産する攻撃的なものだった。ボール保持の局面にもこだわるスタイル。習得には時間がかかるとされるのが一般的だが、その中でも結果との両立を目指すプロジェクトだった。長丁場のキャンプを通じてスムーズに落とし込まれたが、シーズン中盤戦からは苦難に見舞われた。
 一つは相手が山雅のスタイルを分析した上で強みを消してくること。それを上回る修正を効果的に働きかけられたケースは決して多くなく、自分たちの強みが封じられた。例えば1-4第30節いわてグルージャ盛岡戦。相手の中三川哲治監督は「19番(小松蓮)と15番(菊井悠介)のラインだけ気を付けて抑えられれば、前半はある程度いけると思っていた」と試合後に明かした。

 攻撃にアイデンティティを持っていたが、最後は3試合連続ノーゴールの4試合勝ちなしでシーズンが終了。カマタマーレ讃岐とスコアレスドローに終わった第37節でJ2昇格の可能性が消滅した。攻撃の軸を担っていた菊井が残り5試合の段階で負傷離脱したのが痛かったし、19ゴールでJ3得点王のエース小松も残り2試合は連続で PK失敗。小松は「すごく悔しい。目標の数字にも達していないし、チームを勝たせるゴールもなかなか取れなかった。後半戦にチームが上に行けなかったのは、完全に僕の責任」と唇を噛む。
 前半戦から複数失点が立て続いたことなどを受け、チームは途中から守備の整備に着手。サイドでの守り方やクロス、カットインへの対処法を明確化して一定の効果は挙げたものの、失点は最後まで続いた。総得点51は7位、総失点47で10番目の少なさ。攻守ともに数字の上では平凡に終わった。

 「結果」は出なかったが、「成果」に目を向けることはできる。ベストイレブンに入った小松と菊井を筆頭に、若き才能が新たなスタイルの中で経験を積んで躍動。野々村鷹人はビルドアップで新境地を開拓したし、米原秀亮は球際の強さを身に付けて本来の展開力も存分に発揮した。野々村は「良くなった部分もあるし、成長していかないといけない部分もまだまだある。それを経験できたことはうれしいし、自分はもっと成長できる」と話す。
 霜田監督の契約更新も発表され、2024シーズンはこのスタイルで2年目を迎える。「霜田さんが今年チャレンジしたことは、相当な勇気がないとできない。チームのスタイルを変えるのは簡単ではない。悔しいし悲しいが、来年こそ上がると信じている」とパウリーニョ。進化と熟成を続けながら、3年目のJ3で今度こそ昇格なるか。クラブの底力が問われる。

取材/大枝令