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続いた瀬戸際の戦い 「劇場」の再演を目指して

瀬戸際の戦いに身を投じてきた。松本山雅FCは終盤戦、一進一退を繰り返しながら上位争いに食い下がる抗戦。しかし他チームも足踏みを続ける中で勝点を思うように伸ばすことができず、浮上のきっかけをつかめないままシーズン大詰めまで来てしまった。
 残り6試合の段階から、再びギアを上げた。第33節SC相模原戦で2-0として2試合ぶりの白星を挙げると、続くギラヴァンツ北九州戦も1-0として2連勝した。相模原戦は、ピッチ内での修正が効果を発揮。後半に相手が中盤の立ち位置を変えて反撃を期してきた中でも、それを敏感に察知して対応した。
 「2点取れていたし、そんなに慌てることもなかったので、そこに関しては良い判断ができたと思う。成功体験になったし、サッカー選手の知識としても引き出しが増えた」とディフェンスリーダーの常田克人。後方から戦況を判断し、2点リードという状況も踏まえながら守り抜いた。
 この試合では、J2町田から復帰した山口一真が躍動。強烈なシュートを叩き込んで先制点を挙げた。くしくも自身にとってJリーグ通算100試合出場の節目。選手生命に関わる2度の大ケガを乗り越え、復活を印象付ける一撃を自らの右足で決めた。「自分で自分のメモリアルを祝えたと思うので良かった」とうなずいた。
 山口はその後の試合でも、攻撃の核として機能。もとより大卒ルーキーでJ1鹿島に加入した実力の持ち主だ。効果的な位置でボールを受けて攻撃を発動させ、卓越した技術と力強さでロストせずにプレーを完結。菊井悠介が右肩脱臼で離脱した第35節以降は、トップ下でタクトを振るってきた。
 だが、チーム自体は2連勝の後に再びしぼんでしまった。第35節福島ユナイテッドFC戦。前節の負傷で離脱した菊井と、リーグ得点ランキング首位のエース小松蓮が出場停止で不在となった試合だ。44分に熟練のストライカー・渡邉千真の巧みな一撃で先制点を挙げるまでは理想的。しかし後半は一方的に押し込まれ、修正できないままPKを与えてドローとなった。
 続く第36節は、ホームでYSCC横浜を迎えた一戦。上位との勝点差を踏まえれば、残り3試合で3連勝しなければ後がないシチュエーションだった。しかし攻守に精彩を欠いたままの90分間。硬くなったのかミスが頻発して攻撃が機能せず、相手の勢いに呑み込まれてセットプレー2発で沈んだ。
 第33節からゴールマウスを守るGKビクトルは「セットプレーでは完全に相手が上回っていたと思うし、自分たちの攻撃も何もできなかった。守備の部分も完全にやられて、完敗だった」と白旗をあげるしかなかった。本記事を執筆する20日現在、残り2試合で2位まで勝点差5の7位。奇跡は起こせるのか。

取材/大枝令