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【日本ウェルネス長野高等学校 野球部】「地域に恩返しを」 名伯楽とともに最後の夏へ

長野県高校野球界の名将率いる「最後の夏」が近付いている。日本ウェルネス長野高の中原英孝監督が今夏での勇退を表明。通算40年となる監督生活に終止符を打つ。1日1日の重みを踏みしめながら、39名の野球部員とともに最初で最後の頂点を目指す。

 1945年、会染村(現池田町)出身。明治大を卒業後、母校・松商学園高を22年間指揮した。その後は長野日本大学高監督を10年間。2校を春夏通算11度の甲子園へ導いた名伯楽は新たな挑戦の場を日本ウェルネス高に求め、その指導を仰ぐべく県内外から筑北村に多くの学生が集まった。閑静な山林に囲まれ、見上げれば突き抜ける青空が広がるグラウンド。バッティングゲージもマシンも、ネットなどの設備も村の提供だといい、「こんなに良い環境でプレーできる贅沢はない」。教え子たちにそのありがたみを説き、「村への恩返しを」と常に姿勢を正してきた。

 就任8年目を迎えた。学校と野球部が地域に夢を与え、「村の財産」として愛されるよう精進を重ねる日々。「住民に声をかけてもらうありがたみを、生徒たちに分かってほしい」と中原監督。地域に感謝し、ともに歩んでいく姿勢を継承していってもらいたい考えだ。部員全員でおこなう村道の清掃やボランティア活動といった日常的な貢献はもちろん、競技面でも初年度からベスト16進出。それ以来、その成績を下回ることなく結果を残し続けている。

トップクラスの才能でなくとも、愛情込めて育て上げることで才能はみるみる花開く。「まずは毎日通わせるところから。とにかく休まないで練習に来なさい、と。そして自分の好きなことに汗をかいて、自信をつけなさい、と教えている」。今では1日たりとも休む者はいない、と監督はうれしそうにグラウンドを見やる。一人ひとりの能力を見定め、些細な変化を見逃さず叱咤激励を飛ばす。
「叩っ込め!」
「なんだ、その当て方!」
まるで父親のような厳しくも温かいまなざしは、選手たちにも確かに届いている。「卒業して大人になったとき、立派な社会人になれるように学ばせてもらっている」と三原田京成主将。「私生活がしっかりしないとプレーが成り立たない。厳しいのは成長を期待されているからこそ」と表情を引き締め、「監督の最後にふさわしいチームになりたい」と語る。監督の教えを求めて新潟県から進学した自身にとっても、これが最後の夏となる。

残された時間はあとわずか。39人の思いはただ一つ、「監督を、また甲子園の舞台へ」。つかみ取りたい景色のため、全身全霊をこの夏に賭ける。


【中原 英孝 監督】
40年間も、伸び盛りの生徒たちを預かることができて幸せ者でした。健康に留意して1日も長く元気でいたいと思います。悔いはないし、ここで甲子園に行けたら最高ですね。


【三原田 京成 主将】
監督の言葉は「1人が言われたことも全員に言われていると思って聞こう」と皆に伝えています。自分達の夏を全力でやって、一番良い結果を出したい。最高のプレゼントにしたいと思います。

取材・撮影/佐藤春香