パラスポーツ

陸上短距離 伊藤 聡也さん

走ることが楽しくてたまらない!
風を切って走る高校生スプリンター

爽やかな秋の空気に包まれた伊那養護学校のグラウンドを、スタートの合図で風を切って走り抜ける伊藤聡也さん(16)。土を蹴る音と呼吸音が響いた数秒後、ゴールして振り返って見せたその目には、走ることへの喜びが満ち溢れていた。「もっと素早く、少しでも早く」。静かにスタート位置に戻っていく背中から、そんな声が聞こえた気がした。
高等部2年の伊藤さん。小さい頃から体を動かすことが好きだったといい、同校で本格的に陸上を始めた。昨年の障害者スポーツ大会では、50メートルで上伊那大会1位、県大会でも2位という好成績。出場予定だった全国大会は新型コロナウイルスの影響で中止となってしまったが、県内の出場予定者を対象にした記録会兼選考会(10月4日、長野市)では、自身初の100メートルで自己目標を上回る12秒17をマークし、来年開催予定の全国大会の切符を引き寄せた。

顧問の教諭によると、伊藤さんはとにかく練習熱心。記録会前は毎朝練習に励み、雨の日は屋内で縄跳びをして脚力を鍛えてきた。本年度からは憧れだったスパイクも履き始め、クラウチングスタートの練習も導入。スタート時の姿勢や歩幅を意識したトレーニングを積み重ねてきたことで、10月の記録会では審判団から姿勢を褒められたという。スタートに自信を持てたことから、次の大会では50メートルよりも、スターティングブロックをつけられる100メートルに照準を合わせていく予定。伊藤さんも「100メートルは長く走っていられるから楽しい」と話す。
電車とバスを乗り継いで1時間半かけて通学し、アルバイトもしているが「練習は大変というより、楽しいという気持ちの方が大きい」と伊藤さん。「100メートルのタイムを11秒台後半まで縮め、全国で1位を取って帰ってくること」が目標で、顧問と二人三脚で今日も練習を積み上げる。スパイクの紐を結び直し、スタート位置から真っ直ぐ見つめたゴール。大舞台で走る自分の姿を胸に描き、全力で駆け出していった。

取材・撮影/笠原 潤一

伊藤 聡也(いとう さとや)さん
駒ヶ根市在住 2004年3月31日生まれ
伊那養護学校高等部の2年生。何よりも走ることと練習が大好きで、夢中で陸上を楽しんでいる。今年から使うようになったスパイクは、自分でピンを磨くなど手入れをして大切にしている宝物。