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続く正念場 最年長コンビの躍動にヒント

3歩進んで2歩下がる。その繰り返しが本当の意味での実力を養うのだとすれば、J3のAC長野パルセイロは正念場に直面している。第11節から始まったクラブワースト記録の9戦未勝利から抜け出したが、その後は大敗と劇的な勝利の繰り返し。一進一退の中、最年長34歳の2人の躍動に復活のヒントが隠されている。

 活力をもたらしたのは7月下旬にJ2の東京Vから完全移籍で加入したMF加藤弘堅だ。京都や北九州など計5クラブを渡り歩き、加入した時点でJリーグ通算364試合出場の実績を誇るベテランは「(AC長野は)第10節を終えた時点で首位。その力をどう引き出すか。自分のエゴを出すのではなく、味方を鼓舞するような声かけでチームが進めば必ず良い方向に行く」。チームに合流後は、すぐに仲間とコミュニケーションを深め、各選手の特徴把握に全力を注いだ。すると加入後、わずか5日目で臨んだ第20節の相模原戦(7月29日)で圧巻のパフォーマンスを披露した。
 中盤の司令塔として起用されると、長短のパスで味方を自在に動かして躍動。0-0で迎えた後半18分にゴールほぼ正面の位置でFKを獲得すると、キッカーに志願し「(右足を)振りかぶった瞬間に入ると思った。自分は『持っているタイプ』ではないのでびっくり」と鮮やかに決勝点を決めてチームに10試合ぶりの勝利をもたらした。

 その姿に触発されたのがMF宮阪政樹だ。山形や松本山雅など5チームでプレーし、AC長野に在籍3年目。高精度のキックでJ2時代に挙げた直接FKからの16得点は歴代1位記録を誇る。だが、同じポジションに加藤が入ったこともあって出場機会が減っていた。
 それでも、ピッチに立てば結果を残す。第21節の岩手戦(8月6日)で0-3の惨敗を喫し、重苦しいムードのまま臨んだ続く鹿児島戦(8月13日)。1-1の後半50分、ゴール正面で得たFKのキッカーとして投入されると「弘堅(加藤)が相模原戦で決めていたので見返してやろうと思った」と、ファーストタッチで決勝弾をたたき込む離れ業をやってのけた。

 だが、ベテランの活躍だけでは、成長の一歩は踏み出せない。第23節の岐阜戦(8月19日)はホームでクラブの過去最多失点記録を更新する1-5で大敗し、復活は道半ばであることを露呈した。チーム2番手の5得点をマークしている山本大貴ら主力の相次ぐ故障離脱など不安要素を挙げればきりがない。一方で、出場機会に恵まれない中堅や若手にとってはアピールの絶好機だ。

 「毎試合(チーム内から)ヒーローが出てくることが大事」とは宮阪の言葉だ。裏を返せば、2人のベテランは常にヒーローになるための覚悟を持って準備し、結果を出し続けて、過酷なプロの世界を生き抜いてきた。AC長野の中に、同じように腹をくくった選手がどれだけ現れるのか。大逆転でのJ2昇格の鍵はそこにある。