医療コラム

人間万事塞翁が馬vol.17 開かれた心

スポーツは単に身体を動かすだけの活動ではありません。技術や筋力、スピードを身に着けるだけでなく、心の成長、チームワーク、目標への情熱など、人との関わりを通じて得る多くの価値が含まれています。この中で、特に「オープンマインド」という心の持ち方がスポーツにおいて非常に重要な役割を果たしているのをご存知でしょうか?
 「オープンマインド」とは、文字通り「開かれた心」を意味します。これは新しいアイデアや異なる視点、考え方に対して好奇心をもち、先入観や偏見を持たずに受け入れられる態度のことをいいます。自分の考えや信念だけにとらわれず、自身の行動を再評価し、柔軟性を持って他者の意見を受け入れ、そして新しい経験や知識を求める意欲がある状態といえます。スポーツにおいて、この「オープンマインド」がもたらす効果についていくつか例を示します。
 1. 新しい技術や戦術の理解: スポーツの世界は日々進化していて、時代とともにトレンドが生まれます。新しいトレーニング法や戦術も次々と出てきます。自分の知っている方法が最良だという考えに固執してしまうと、新しい情報を受け入れようとすることが難しくなってしまいます。オープンマインドを持つことによって、新しい情報を受け入れ、個人のパフォーマンス向上やチームの勝利のチャンスを増やすことができます。
 2. チームワークの向上: チームスポーツにおいては、さまざまな背景や異なる性格を持つ人とコミュニケーションをとり、協力する必要があります。オープンマインドであればお互いの意見や考え方を尊重しあい、それによってチームワークが向上し、チームとして最良の結果を目指すことができます。
 3. 精神的な成長: 失敗や困難に直面したとき、固定観念にとらわれずに異なる視点で物事を捉えることで、新しい解決策や学びを見つけ出せる可能性があります。スポーツでは失敗やミスが必ずおきますし、ときには挫折することもあるでしょう。そうした経験を学びの機会と捉えて失敗から学ぶ姿勢を身に着けることも、オープンマインドのもたらす効果と言えます。失敗や挫折を成長の糧にすることは、スポーツ選手にとってとても大切です。
 そして、スポーツでケガをしてしまったときにも、オープンマインドは大きな力を発揮します。私のクリニックを受診される患者様によく「ケガを味方につける」という言葉を伝えていますが、オープンマインドがあれば、ケガの治療だけでなく、これまでの生活習慣やトレーニング内容を見直したり、自分の身体をもっと知ることで、その後のケガ予防やパフォーマンスの向上に役立てられるはずです。ケガによって競技から離脱した時間を、ただじっとして治るのを待つのではなく、もっと有効に活用することだってできるのです。
 膝の靭帯を痛めたバスケットボール選手がケガをきっかけにトレーニングにピラティスやヨガを取り入れたり、筋損傷をした陸上選手がリハビリ中に瞑想やマインドフルネスを学び、精神的な強さを養う機会を作ったり、骨折したサッカー選手が自分のプレースタイルを変えたりと、実際にケガをしたスポーツ選手がオープンマインドを持ってリハビリ期間中に新しい取り組みを行ったことで、その後のケガを予防し、パフォーマンスを向上させています。
 スポーツをしている学生だけでなく、保護者やコーチの皆様にも試合の結果や記録だけではなく、心の成長や人との関わりによって得られる学びを大切にしてほしいと思います。オープンマインドを持つことで、スポーツを通じて得られる経験や学びが、さらに豊かなものとなるでしょう。新しいことに挑戦する勇気、チームメイトとの協力、人との違いを受け入れる柔軟性、そして常に成長し続けたいという意欲。これらはスポーツのフィールドだけでなく、人生のさまざまな場面での成功の鍵となるはずです。

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▶PROFILE
百瀬 能成
一般社団法人MOSC 百瀬整形外科スポーツクリニックの院長。
スポーツの世界に「Player’s first(プレイヤーズ・ファースト)」という言葉があるように、患者様を第一に考える「Patients’s first(ペイシェント・ファースト)」を理念として、スポーツ傷害や整形外科疾患の治療にあたる。松本山雅FCチームドクター。医学博士。