医療コラム

人間万事塞翁が馬vol.25 肘の障害とスポーツ

春の陽気が心地よく感じられるこの時期には、屋外での活動が一段と楽しくなります。部活動やクラブの試合も多くなり夏の大会に向けて意欲的にトレーニングが行われていることと思いますが、新学期からの疲労が少しずつ溜まってきて、「使い過ぎ」によって生じるケガが起こりやすい時期でもあります。今回は、スポーツによる使い過ぎが原因で起こる肘のケガについて紹介します。
 肘のケガは手を使って行う競技で生じやすく、ボールを投げたりラケット振ったり、繰り返しの動作によって肩や肘、手の関節を動かす筋肉に過度な負担がかかることで生じます。スポーツ競技によって肘に特徴的な痛みが生じることから、肘のケガにはスポーツの名前がそのままついています。肘の外側に生じる痛みを「テニス肘」、肘の内側に生じる痛みを「ゴルフ肘」と呼び、投球動作で生じる様々な痛みを「野球肘」と呼ぶことがあります。
 テニス肘は、肘の外側に痛みが生じるケガで外側上顆(がいそくじょうか)という筋肉の付着部の障害です。医学的には「上腕骨(じょうわんこつ)外側上顆炎(がいそくじょうかえん)」といいますが、テニスのバックハンドの動作によって手関節を背屈する筋肉を使い過ぎることで腱に小さなキズができ、これが繰り返されることで発症します。これに対して、肘の内側に生じる痛みで、内側上顆(ないそくじょうか)の筋付着部の障害をゴルフ肘と呼びます。ゴルフのスイングでは主に肘の内側につく筋肉を使うため、手関節を曲げたりグリップを強く握るなどで筋肉の活動が多くなるとこれらの筋肉の腱付着部に小さなキズが生じこれが繰り返されることで発症します。病名は「上腕骨内側上顆炎(じょうわんこつないそくじょうかえん)」といいます。どちらもラケット操作やスイングの繰り返しによって生じるため、練習後のストレッチや身体のケア、疲労回復を十分に行うことで予防は可能です。またグリップのサイズやシャフトの硬さ、ラケットやクラブの重さが自分の身体に合っているかを見直し、必要に応じて調整することも有効です。これらの痛みはスポーツだけでなく日常動作でも生じます。手首を動かす動作が多い方や、家事をされている女性に多く発症するのも特徴です。料理や掃除など、家事には手首の動きが意外と多いのです。

 また、投球動作が原因で生じる肘の痛みを「野球肘」と呼びます。これは投球動作を繰り返すことで肘に生じる様々な痛みの総称で、肘の靭帯損傷(じんたいそんしょう)や軟骨損傷(なんこつそんしょう)、疲労骨折(ひろうこっせつ)など多くの障害があります。肘の内側側副靭帯損傷(ないそくそくふくじんたいそんしょう)や成長期に起こる内側上顆の骨端線損傷(こったんせんそんしょう)や裂離骨折(れつりこっせつ)、上腕骨の関節軟骨が損傷する離断骨軟骨炎(りだんこつなんこつえん)、肘頭(ちゅうとう)の疲労骨折や尺骨神経障害(しゃくこつしんけいしょうがい)などが挙げられます。投球動作は全身運動ですから、いわゆる「手投げ」のような不適切な投球フォームが原因となる場合や、体幹や下肢に問題があり、痛みやケガによってフォームが崩れ二次的に発生することもあります。痛みを改善させながら、正しい投球フォームを身に着けることが大切です。
 頑張り屋のみなさんですから、多少の痛みを抱えながらスポーツを継続していることも多いと思います。痛みを感じたら思い切って「休む」ことも大切です。そして、休む時間を利用してケガ以外の部分を見直すことでも、自らケガを予防し、勝利へと導くことができるのです。

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▶PROFILE
百瀬 能成
一般社団法人MOSC 百瀬整形外科スポーツクリニックの院長。
スポーツの世界に「Player’s first(プレイヤーズ・ファースト)」という言葉があるように、患者様を第一に考える「Patients’s first(ペイシェント・ファースト)」を理念として、スポーツ傷害や整形外科疾患の治療にあたる。松本山雅FCチームドクター。医学博士