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【バスケットボール:熊谷歩志】志高く歩む 伸びやかに芽吹く注目のホープ

「諦めなければ絶対に良いことがある。つらさを乗り越えて今があるので、これからも諦めずにやっていく」。長野県バスケットボール界のホープ・熊谷歩志は、一歩ずつ静かに力を蓄えている。競技を始めてわずか3年弱だが、そのポテンシャルは折り紙付き。県選抜ユース登録を経て、昨年12月には日本バスケットボール協会主催のU14ナショナルトレーニングセンターキャンプに参加した。
 身長191cm。長い手足でコートに君臨するが、小学5年生までスポーツ経験はほぼなかった。「3歳の頃には小学生に間違われるほど背が伸びていた」と母・真由美さん。「何かスポーツをさせたほうが良いのかも」と思いつつ、きっかけをつかめずにいた。両親が営むカレー店を訪れたプロクラブスタッフから長身を見込まれ、Bリーグ・信州ブレイブウォリアーズの試合を観戦。「自分でもやってみたい」と口にしたのが始まりだった。
中学2年生の現在は塩尻市のHRD BASKETBALL CLUBでプレー。原田将史ヘッドコーチ(HC)は、「今の彼自身に持てるスキルで、仲間のためにできることを精いっぱいやっている」と評価する。「特に『得意なエリアで受けたら自分で行け』『外すことを恐れず打て』など、遠慮しない姿勢を指導している」といい、「バスケを始めたのが遅いことが、なかなか自分を出せない要因のひとつ」と現状を見つめる。
 中学1年生の時、信州ブレイブウォリアーズU15のトライアウトに合格。だが、チームメイトは基礎スキルの水準が高く、雰囲気になじめず苦い思いをした。「大きいだけ」。そう見られるのがつらかったが、好きになったバスケットは続けたかった。そこで2023年3月、友人が所属するHRDに加入。のびのびと基礎スキルを鍛え、みるみるうちに芽を出した。
今では自ら長身を活かし、ゴール下でのサポートに献身。「できることがもっと増えれば、チームのために役立つことをどんどんやれるプレーヤーになれる」と原田HCは期待を込める。「これからますます彼を欲しがるチームがたくさん出てくる。厳しい世界に行くかもしれないが、楽しむことを忘れずに粘り強く努力していってほしい」。その姿は、熊谷自身が憧れる元信州の日本代表ジョシュ・ホーキンソン(渋谷サンロッカーズ)を思わせる。
12月の選抜キャンプでは初めて県外のハイレベルな環境に身を浸し、スキルセットの違いなどを感じながらも「シュートブロックなどは通用するものがあった」と手応えを得た。「フィジカルや、ボックス外でのプレーをもっと強化していきたい」と課題も口にする。原田HCは「自信をつけて帰ってきた」とほほえみ、「同年代、同じサイズの選手を見て刺激を受けたのでは」とうなずく。
 インド人の父と日本人の母を持ち、両親が松本市で営む「DOON食堂 印度山」は著名人もおとずれる人気店。中でも落語家の林家木久扇は「師匠」と慕うほど懇意で、2022年10月に松本で開かれた落語会では氏の前座を勤めるほど落語にも長ける。多芸多才な一面も持ちつつ、今はバスケットのフィールドで才能を伸ばそうとしている。
「一生懸命で、楽しそうにプレーする。私から見ると厳しい練習メニューも、本人は全然厳しいと思っていない。これからも楽しんで、好きなように伸びていってほしい」と真由美さん。志への道は、まだ歩み始めたばかり。周囲の期待も糧にしながら、たくましくしなやかに成長は続く。


Profile:
熊谷歩志(くまがい・あゆし)
2009年8月6年生まれ。塩尻市丘中2年。小学5年時、両親と信州ブレイブウォリアーズの試合を観戦してバスケットボールに魅了される。HRD BASKETBALL CLUB所属。12月、U14ナショナル育成センターキャンプ(日本バスケットボール協会)参加メンバーに選ばれた。

取材・撮影/佐藤春香