医療コラム

人間万事塞翁が馬vol.21 トレーニングの原則

冬の季節がやってきました。これから本番を迎える冬季スポーツと、オフに入り来シーズンに向けた準備を行う夏季スポーツとでは、この時期に行うトレーニングの内容が大きく異なります。冬季スポーツでは試合やレースを中心としたトレーニングスケジュールが組まれ、短期的な成果を求めるトレーニングが主体となるのに対し、夏季スポーツでは来シーズンへ向けた長期的なメニューに沿ってトレーニングが行われます。いわゆるオフトレでは、今シーズンに課題となった弱点を克服するための個別トレーニングを行ったり、来シーズンの目標達成に向けてシーズンを戦い抜くための準備として様々なトレーニングが行われます。競技によって季節ごとにトレーニングの内容が異なりますが、トレーニング科学の観点から、スポーツパフォーマンスを向上させるため共通のトレーニングの基本原則があることをご存じでしょうか。今回はトレーニングの6原則について説明します。

・過負荷(かふか)の原則
筋力や持久力の向上には、通常の運動能力を超える負荷を与えることが必要です。自分の体力よりちょっと強い負荷を与えることで、より効果的に強化することができます。身体がすでに慣れてしまっているトレーニング負荷のみではで運動能力を上げることができません。過度な負荷はケガの要因となるため注意が必要ですが、ちょっと苦しい、少し息が上がる、トレーニングが効果的です。

・漸進性(ぜんしんせい)の原則
トレーニングの効果を最大限に発揮するためには、トレーニングの強度や量を少しずつ増やしていくことが必要です。一定の負荷を与え続けるだけでは体力は向上せず、トレーニングの内容を評価し、時間や量だけでなく、質の改善やいくつかのトレーニング方法を組み合わせることによって強度を高めることもできます。トレーニングの量を徐々に増やしていくことで安全にトレーニングの成果が得られるのです。

・継続性(けいぞくせい)の原則(反復性(はんぷくせい)の法則)
トレーニングは繰り返し行い、継続することが大切です。一時的なトレーニングだけではよい成果は得られず、繰り返し行うことによって身体に変化が生じ、神経回路と運動機能がより強化されていきます。トレーニングの成果がでるには少々時間がかかりますが、定期的かつ長期的なトレーニングが筋力やスキルの向上には不可欠なのです。

・全面性(ぜんめんせい)の原則
技術や体力を身に着けるためには、全身の筋肉をバランスよく鍛える必要があります。瞬発的な筋力や持久力、柔軟性の獲得やバランス能力の強化など、パフォーマンスの向上には複数のトレーニングメニューを組み合わせることが大切です。スポーツの競技特性によって必要なトレーニング方法が異なりますが、偏ったトレーニングではパフォーマンスの向上は得られず、全体的な身体能力を高めるために様々なトレーニングの要素を取り入れなければなりません。

・意識性(いしきせい)の原則
トレーニングでは、目的意識を持つことがとても大切です。自分が今何のためのトレーニングをしているのか、どの部位を鍛えるのか、どの身体能力を強化するのか、いつも認識して行うことでよりよい成果を生むことができます。アプリを使って自分の健康状態をいつも評価したり、トレーニングによって得られた効果を客観的にモニタリングすることも意識的にトレーニングを行うために必要です。そして自分の体調や、限界ついて考えることも大切です。

・個別性(こべつせい)の原則
スポーツ選手はそれぞれ能力や特徴が異なります。各個人で目標も異なりますから、個々の体力や運動能力によってトレーニングメニューが組まれることが理想的です。球技スポーツではみな同じトレーニングを行う傾向にあります。しかし、年齢や性別が異なり、個々の身体能力や技術レベルも様々ですから、どのスポーツにおいても、個別のトレーニングメニューを組んでその内容や強度を調整することが大切です。

この6原則は、スポーツのパフォーマンス向上だけでなく、ケガの予防にも大いに役立つものです。我々のクリニックでは、ケガの復帰やリハビリにおいてもこの原則を活用して行っています。トレーニングはやらされるものではありません。素晴らしいスポーツ選手になる未来の自分を描いて、トレーニングを大いに楽しんでほしいと思います。

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▶PROFILE
百瀬 能成
一般社団法人MOSC 百瀬整形外科スポーツクリニックの院長。
スポーツの世界に「Player’s first(プレイヤーズ・ファースト)」という言葉があるように、患者様を第一に考える「Patients’s first(ペイシェント・ファースト)」を理念として、スポーツ傷害や整形外科疾患の治療にあたる。
松本山雅FCチームドクター。医学博士。