医療コラム

人間万事塞翁が馬vol.20 遊びとスポーツ

Sports(スポーツ)の語源について探ってみました。スポーツという単語は、中世代フランス語で「遊ぶ」、「楽しむ」、「娯楽を提供する」といった意味を表すdesport(デスポール)に由来します。またラテン語で「離れたところへ運ぶ」とか、「一時的に離れる」という意味で用いられるdeportare(デポルターレ)から、「日常から離れて気晴らしや娯楽を楽しむもの」という意味としてsports(スポーツ)へ派生したとされています。スポーツという言葉が広く用いられるようになったのは19世紀になってからで、その頃にイギリスで体系化された競技やレクリエーション活動が「スポーツ」と称されるようになり、現在の「身体的活動やゲームにおける競争的な楽しみ」として進化しました。
人間にとっての「遊び」は、自発的でルールがなく、自由意志に基づいて行われる活動です。遊びには楽しみや喜びがたくさん含まれていて、人間に幸福感をもたらします。まだなにも知らない赤ちゃんでさえ、自分が見た様々なものに興味をもち、手に取って振ってみたり、叩いてみたり、自ら動かすことによって「遊ぶ」ことから楽しみ、喜びを感じて成長していきます。
スポーツは、選手が自由意志で参加し、ルールや枠組みの中で自らが判断して活動することが特徴です。例えば、子どもたちが公園でサッカーをするとき、彼らは自らの意志で遊びを始め、遊具や植えられた木をゴールやターゲットにして、独自のルールを作りながら楽しむはずです。近年のオリンピックにはサーフィンやスケボーなどレジャー活動やストリートカルチャーの遊びから発生した競技がたくさん採用されており、スポーツは遊びの一形態であることを認識することができます。スポーツを遊びとして捉えることによって、その本質的な楽しさを取り戻すことができます。
しかし、現代のスポーツは遊びや娯楽といった本来もつ性質から引き離される傾向があります。スポーツ競技には勝利のみが目的とされがちで、スポーツにおけるルールと競争の部分だけが強調されてしまい、保護者や指導者にスポーツの本質が理解されていないことがあります。競技スポーツでは厳しいトレーニングや規律がある程度のパフォーマンス向上に不可欠です。限界を突破して自己ベストを更新するためには相応の努力が必要ですし、厳しいトレーニングによって選手が困難に直面した際の精神的な強さや回復力を育むことができます。これはスポーツだけでなく日常生活においても役立つ重要なスキルであり、選手が自らの目標に対して高いモチベーションを持ち続け、自己成長や、成功への道を切り開くための手段となり得ます。しかし、過度に厳しいトレーニングや競争は、楽しみや遊びの要素が失われ、やらされているという感覚が根付いてしまい、やがてスポーツ離れの一因となることがあります。また選手のバーンアウト(燃え尽き症候群)や過度のストレスを引き起こし、特に若いアスリートにとって、身体的および精神的健康に影響を与える可能性があります。これはスポーツの本質から大きくかけ離れたもので、スポーツハラスメントと呼ばれる問題も、ここに起源があることを理解しなければなりません。
スポーツは「遊び」の要素を多分に含んでいます。スポーツを遊びと捉えることは、決して競争を否定することではありません。むしろ、競争と遊び心は互いに補完し合い、より豊かなスポーツ体験を創出することができます。競争を通じて、達成感や自己の成長を経験しつつ、遊び心を忘れないことがスポーツの真価を引き出します。選手が自ら楽しいと感じ、自ら厳しいトレーニングが必要と判断し、その後に達成した喜びを実感できる環境をもっと作るべきです。選手も、コーチも、保護者も、勝負にこだわりすぎてみんな疲弊していませんか?競争のみに焦点を当てるのではなく、スポーツ本来の楽しさを保ちながら、子供達の精神的健康、社会性、創造性を高め、スポーツの遊び心を大切にすることで、私たちはより健康で、より充実したスポーツ環境を実現することができるはずです。

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▶PROFILE
百瀬 能成
一般社団法人MOSC 百瀬整形外科スポーツクリニックの院長。
スポーツの世界に「Player’s first(プレイヤーズ・ファースト)」という言葉があるように、患者様を第一に考える「Patients’s first(ペイシェント・ファースト)」を理念として、スポーツ傷害や整形外科疾患の治療にあたる。
松本山雅FCチームドクター。医学博士。