医療コラム

人間万事塞翁が馬vol.15 大事な足

車や新幹線など交通機関がまだ発達していなかった江戸時代、人は東海道を自分の足で歩いて移動していました。昔の人々はわらじやゾウリ、足指が分かれている足袋(たび)を履いていましたが、このような日本の伝統的な履物は、足の自然な動きを促す設計になっています。わらじは足の指が地面につくようにできていて、「地面を握る」という動作が自然に行われるため、これが前へ進むための推進力になります。そして足の指をしっかり使うことは、歩行時の膝や腰への負担が軽減されることにつながります1)。昔の人は、川を渡り、山を越えて、長い距離を移動する際に、足の指を積極的に使うことによって身体への負担を減らして、楽に歩けることを経験的に知っていたのですね。

 スポーツ活動をしているとき、足と足の指は非常に大きな役割を果たしています。足の構造として重要なのがアーチです。親指の付け根(母趾球)、小指の付け根(小趾球)、踵をそれぞれつないだ3つのアーチがあって、内側たてアーチ(図1の①)、外側たてアーチ(図1の②)、横アーチ(図1の③)に分けられます。また、たてのアーチがつぶれ足部が平らな状態を偏平足と呼び、逆にアーチが大きく甲高な足をハイアーチと呼びます。スポーツ活動中では、これらのアーチが形を変化させながら、地面や床からの衝撃を吸収したり、身体のバランスを維持したりしています1)。また、前述のとおり、足指の筋力はアーチと連動することによって推進力としての役割を果たしています。足に柔軟性があって、足指の可動性があること、そして足指をしっかりと握る筋力があることは、スポーツをする上で非常に重要です。
 膝や足の痛みを抱えてクリニックを受診される患者さんのなかに、足の指が全く使えていない方がいます。特に足の前方が硬くなっていて指を十分に底屈させることができない方や、小指を外転させる(外に向かせる)運動ができない方がいます。足の機能が十分に働かないと、日常生活やスポーツ活動中に床や地面からくる衝撃を効率よく吸収することができません。またバランスコントロールができず他の部位に大きな負担がかかってしまいます2)。転倒しやすいとか、シンスプリント(下腿内側の痛み)やアキレス腱の痛み、足首の捻挫、足部の疲労骨折などケガの原因となることがあります3)。
スポーツ選手には、普段の生活から足の指を積極的に使い、足部の柔軟性を維持しておくことが推奨されます。裸足で過ごす時間を増やし、足指を握るエクササイズ(ギャザリング)や足部のストレッチを行ってください。
 夏の暑い時期には、サンダルよりもぞうりのような足の指を使う履物を選ぶこともよいでしょう。このような習慣をつけることも、足の痛みやケガを予防する上でとても重要です。さらにスポーツ活動中の衝撃吸収や身体のバランス維持を効率よく行え、パフォーマンスが向上する可能性があります。足はまさに縁の下の力持ち、スポーツ活動中に最も活発に動いているといっても過言ではありません。毎日使う足を大切にしましょう。

1) 深代千之 骨・関節・筋肉の構造と動作のしくみ ナツメ社
2) Foot impairments contribute to functional limitation in individuals with ankle sprain and chronic ankle instability. Fraser JJ, Koldenhoven RM, Jaffri AH, Park JS, Saliba SF, Hart JM, Hertel J.Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2020 May;28(5):1600-1610.
3) Leg stiffness changes in athletes with Achilles tendinopathy.
Maquirriain J.Int J Sports Med. 2012 Jul;33(7):567-71. doi: 10.1055/s-0032-1304644. Epub 2012 Apr 12.PMID: 22499572
本コラムに関するご質問やご要望、ケガについてこんなこと聞きたい!という方は、下記メールまで
info@mosc.jp

▶PROFILE
百瀬 能成
一般社団法人MOSC 百瀬整形外科スポーツクリニックの院長。
スポーツの世界に「Player’s first(プレイヤーズ・ファースト)」という言葉があるように、患者様を第一に考える「Patients’s first(ペイシェント・ファースト)」を理念として、スポーツ傷害や整形外科疾患の治療にあたる。松本山雅FCチームドクター。医学博士。