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【蟻西ファイターズ】とことん楽しむ 独自路線を徹底

打球を取れなくても空振りしても、グラウンドには笑顔がこぼれる。少年野球の蟻西ファイターズ。独自の指導で子どもたちに野球の楽しさを伝え続けている。少年軟式野球連盟などの団体には所属せず、公式戦はシーズンに1〜2回だけ。和田信成監督は「中学や高校で野球を続ければ、競争があるからどのみち苦しくなる。小学校では苦しまず、楽しいと思って続けてもらえればいい」と力を込める。

 40数年前に結成され、現在の和田監督は3代目。先代の時期も含めて同じスタンスで続けてきているという。80人ほどが所属した最盛期も、公式戦にはほとんど出場せず。もちろん試合を経験するメリットは認めつつ、「試合に出るなら選手を(実力に応じて)分けなければいけなくなる。そうではなくて、全員で均等にやっていきたい」と和田監督は説明する。

 松本市開智小のグラウンドで、練習は日曜日の午前中のみ。現在は8人が所属し、元気に白球を追いかける。ノックを後逸しても送球がそれても、監督やコーチが声を荒らげるシーンはない。「ボールを取れたりとかプレーが成功した時は、とにかくみんなで『ナイス!』と喜び合う。バッティングも思い切り振って楽しくやって帰ってくればいい」と和田監督は目を細める。

 こうした環境下で、育った才能もある。元DeNAの百瀬大騎さんだ。蟻西ファイターズから旭町中を経て松本第一高に進み、2014年のドラフト会議で同球団に6位指名された。現在は球団職員を務める。NPBの一軍を経験したプレーヤーも、この自由闊達な気風に身を浸してから飛躍を遂げた。
 それは一つの成果ではあるものの、「偉大な先輩に続け!」――と特段に力んでいるわけでもない。子どもたちは目の前の白球を夢中で追いかけ、野球の楽しさを全身で謳歌する。「楽しいし厳しすぎないし、いろんな練習ができる」と吉澤蒼太郎くん。中村大騎くんも「無理に練習はしないけど、ここでできるだけ多くのことを覚えたい」と目を輝かせる。

 新たな仲間を探す取り組みもしている。未経験の子どもたちを対象に、ストラックアウトなどのアトラクションを含めて野球の体験イベントを実施。さらに、保育園や幼稚園にアプローチする普及活動も、松本大学などと連携して計画を温めているという。野球の楽しさを覚えてもらい、次のステップへ。首尾一貫した取り組みは、これからも続く。


【和田 信成 監督】
たとえプレーがうまくいかなかったとしても、子どもたちを厳しく責めるような言葉遣いはしません。練習試合は時々ありますが、公式戦は年に1回出られればいいくらいです。野球を通じて礼儀正しい大人になってほしいと思っています。


【宮原 武生 主将(開智小6年)】
夏の甲子園を見て興味が沸いて、小学1年生の時に入りました。「プロ野球選手になりたい」とか「甲子園に出たい」とかはあまりないけど、やれるだけやりたいです。野球はみんなと関われるのが面白いし、明るくて熱心に練習に取り組んでいるチームです。

取材・撮影/大枝令