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【南信レッドキッズ:サッカー】 誰もが楽しく          サッカーでつながる安心の輪

ハンディのあるなしに関わらず、親子でサッカーを楽しめる場を作りたいーー。サッカーの南信レッドキッズは、月2回の活動を通じてその理念を実践している。さまざまな特性の子どもたちをありのまま包み込み、家族にも安心を与えるスタンス。コーチの前原幸太さんは「何も強制されることなく、安心して来られる場所に」との思いを第一に考えているという。

 伊那養護学校の体育館に、上下伊那地方から親子が集まる。子どもたちの行動はさまざまだ。率先してボールに駆け寄ったり、笑顔であちこち歩き回ったり、中には体育館の隅からじっとコートを見つめていたり。その全てを「仲間」として受け入れる。「何もせずにフラフラしているように見えても、その子なりに周りのことを見ている。自分から『やってみたい』と興味を持つための大切な時間」と前原さんは話す。


 保護者の「やらせなければ」という焦りも、さりげなく解きほぐす。子どもを練習の列に並ばせたり、輪に入るよう促したりする様子を見かけると、前原さんが「今日、ここにいてくれるだけでいいよ」と声をかける。
 チームに入って3年目になる赤尾瞭くんは、ゲーム中はコートに入らず過ごしている子どもの一人。ボールを奪い合ってドリブルしたりシュートを打ったりはしないが、主役となる瞬間がある。試合中のキックイン。「瞭くん!」と呼ばれればすぐさま駆けていく。勢いよくボールを蹴り込むと、またコートの外に戻っていく。前原さんは「サッカーの競技性やルールに馴染めなくても、工夫すれば誰でも何かができる瞬間はある」と話す。

 元気いっぱいに「ずっとサッカーをやりたかった」と話す岡本風雅くんは、父親と2人で飯田市から通っている。積極的にボールを追いかける姿は瞭くんと対照的だが、コート外での2人は笑顔を交わし合って遊ぶ仲だ。そんな様子を眺める父親の裕さんは「『障がい』を特別視することなく、皆が同じように遊べるのが良いところ。なかなか外遊びが難しい中で運動できる場はありがたい」と話した。

 2014年11月に発足し、今年で10年。きっかけは障がい者スポーツの拠点「サンスポート駒ヶ根」が開催する年1回のサッカー教室だった。保護者から寄せられた通年開催の希望を受け、当時伊那養護学校教員だった前原さんがチームのコーチを引き受けて現在に至る「『サッカー』というキーワードで、誰もが安心して楽しめる居場所になれたら」。10年続くその願いを軸に、地域に「安心」の輪を広げる取り組みは続く。

取材・撮影/佐藤春香