スポーツを通して、身体と心を解きほぐす。穂高有明の山すそからほど近い「医療法人 虹の村診療所」では、精神科デイケアの一環として週に2回の「スポーツワーク」を実施する。テニス、ソフトバレーボール、卓球、バドミントン、サッカーなど、多種多様なスポーツを通して人の輪に入り、社会性の育成と回復を目指す。
穂高駅から西へ、車で5分。住宅地から離れ、木々の緑が穏やかな風景の中にそっと佇む「虹の村診療所」の門。心の病や精神症状、身体症状に苦しむ人々が、「人生の悩み」を抱えてその門をくぐる。「デイケア」はそんな人々が社会生活を取り戻すため、日中の活動を支援する取り組みをおこなう通所リハビリテーション施設だ。
「社会との関係に苦しんできた人が多い。童心に帰って遊びを楽しむような気持ちで参加してもらえれば、ストレス発散にも繋がる」。スポーツワークリーダーを務める平林克也さんは、そのねらいを話す。競技性を追求しない中にも勝負の競り合いを取り入れ、楽しんでプレーできるように工夫を凝らす。
通所者のひとりである青柳寿明さんは、1ヶ月に1度のフットサルと、週に1度のテニスを楽しみに通う。「本気でプレーできて、自分の力を発揮できる。遠慮したり、気を遣って我慢したりしなくていいのがうれしい」と、よろこびと自信をのぞかせる。
一方で、運動に苦手意識があったり、習慣がなかったりと、身体を動かすことを「苦」に思う人も多い。「それでも『敢えて』やってみることで、楽しさを知ってもらいたい」と、コメディカルスタッフ薬剤師の小林陽子さんは優しくほほえむ。「運動へのハードル」を少しでも下げる工夫を散りばめ、通所者の「最初の一歩」を待つ。外部施設ではなく、出入りしやすい診療所内のデイルームで卓球をするのも、そんな工夫の1つだ。
そっと開かれた扉の奥には、明るい窓辺と、卓球台を囲む楽しげな声。覗き見る人は、「おいでよ」と笑顔で手招きを受ける。「自分のやりたいことに合わせてくれる。無理強いされることも、することもないし、上達を目的としない雰囲気が良い」と、別の通所者Aさんは穏やかに語る。
仲間とともに身体を動かし、声をかけあうことで、足を止めてしまった心は少しずつ「人と関わるよろこび」を取り戻していく。穏やかに、ゆるやかに流れる時間の中で、スポーツがもたらす「快」の刺激は、また明日へと一歩踏み出す元気をくれる。
取材・撮影/佐藤春香