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【セカンドキャリア/安東輝さん】持ち前の「探求心」で 新たな価値を生み出す

自分はどうありたいか――。思考を突き詰め、松本でセカンドキャリアを踏み出した。
松本山雅FCでプレーし、昨季はキャプテンも務めたMF安東輝。
しかし相次ぐケガに泣かされるなどで契約満了となり、現役を引退した。
28歳。条件を問わなければ選択肢はあったものの、ライフプランを熟考してキャリアに区切りをつけた。

 大分県出身。日本サッカー協会のエリート養成期間・JFAアカデミー福島の試験に合格し、中学時代から親元を離れてサッカーに打ち込んだ。高校卒業後の2014年に湘南ベルマーレに加入。以降は2度の期限付き移籍などを経て、18年から足掛け5年間山雅でプレーした。
 Jリーグ通算152試合出場。GK以外ほとんどのポジションをこなす万能型で、主に中盤で存在感を発揮した。高強度で連続性のあるプレーを繰り出し、22年のアウェイ信州ダービーなどでは圧巻のパフォーマンスを披露。だがプレースタイルの代償からか、筋肉系トラブルに悩まされ続けた。
 キャプテンを務めた昨季も離脱が相次ぎ、出場は10試合にとどまった。チームは9位に終わり、自身は契約満了。移籍先を模索する中で、一定の条件と期日を自ら設定した。「ケガが続いていたし、自分の価値が高くないことはわかっていた。どんな環境でもよければ、あと1〜2年は続けられたかもしれないけど、その時間は次の目標のために使った方が10〜20年後には幸せになれているんじゃないかと思った」と明かす。
 期日までに条件を満たすオファーは舞い込まず、潔くスパイクを脱ぐことを決意。自分の美学を貫き、次なる針路は第二の故郷・松本に定めた。「多くの人と深い繋がりを持てているし、古いようで新しい街のバランスも好き。キャンプを始めたのも松本の自然があったから」。以前より交流のあった中村漆器産業の中村健一郎社長から、創造性を見込まれて社員採用の申し出を受けた。
 そこに「山雅の選手だから」という要素はほとんど存在しない。中村社長は「商品やECサイトのデザインなども含め、企画の部分で即戦力として期待している」と明かす。幼少時から母親の影響でファッションなどのセンスが磨かれており、松本でも自身のブランド「安東商店」を立ち上げてアパレルを展開している。
 そのセンスが練り上げられたのは、探求心からだという。サッカーに対しても探求する姿勢を自然と発揮し、「自分の力を全部出せた――と納得できる試合は一つもなかった」。今度はセカンドキャリアでそのマインドを生かす。将来的には経営者を目指しており、さまざまな業務を網羅しながら経営ノウハウを学ぶ。
 もちろん、プロ選手として培った経験も還元する。サッカー教室を開く予定でいるほか、「会社組織とサッカーチームは似ている部分もあると感じた。コミュニケーションの取り方とかは生かせると思う。あとは理不尽に耐える根性と、ミスへの耐性も」と白い歯を見せる安東。芝生の上からフィールドを移し、この街で新たな「輝」を放つ。



取材/大枝令