ショッキングな敗戦を糧に、生まれ変わるべく再出発した。松本山雅FCは4月6日の第8節ツエーゲン金沢戦で、1ー6という歴史的大敗。山雅サポーター約2,500人が意気揚々と乗り込んだ金沢の新スタジアムで、みじめな姿をさらした。
「こんなにショッキングなことは人生で初めて。なかなか整理はできないし、何と表現したらいいかわからない」とMF安永玲央。最終ラインを束ねるDF常田克人も「不甲斐ない結果。何も言い訳ができない」と表情を曇らせた。
だが、この惨敗を転機とした。「試合が終わった瞬間、全てを変えようと思った」と霜田正浩監督。ミスに対する考え方をシビアにし、リスク管理の約束事をマイナーチェンジした。さらに守備の規律遂行を徹底し、日常のトレーニングから緊迫した雰囲気作りを意識付け。メンバー選考も一からフラットに出直した。
すぐに結果に表れれば理想的だったが、現実はそう順風満帆には運ばない。次節の第10節奈良クラブ戦は、前後半の滑り出しに失点して0ー2。2点を返してドローに持ち込んだものの、たやすくゴールを破られる現象は変わらなかった。
潮目はルヴァンカップ。今季からJ1〜J3の全チームが出場する方式に変わり、山雅は1stラウンド2回戦でJ1のアビスパ福岡と対戦した。前回王者に対して山雅はプレーの強度やスピード、技術などで後手を踏みながらも徹底抗戦。失点をCKの1点にとどめた。GK大内一生は「出ている選手が全員で集中していた。サポーターの方もすごく声を出してくれたし、ベンチのメンバーもそう。本当に全員で守れている感覚があった」と振り返る。
結果的には延長戦を終えて1ー1と決着がつかず、PK戦の末に惜敗。それでもJ1チームとの対戦を通じ、示すべき強度と質の「基準」が明確になった。「福岡戦でできた基準は絶対に下げない。守備の規律も魂の基準も下げず、相手にかかわらず自分たちに矢印を向けることが大切」と指揮官。チームに一本の筋が通った。
それをひとまず結果で示したのが、中2日で迎えたJ3リーグ第9節・カマタマーレ讃岐戦。前半は低調なパフォーマンスに終始したものの、後半から一気に主導権を握ってMF菊井悠介の今季初得点で先制する。ワンチャンスを生かされて同点となったが、分厚い攻めで押し込んで勝ち越しに成功。逃げ切って5試合ぶりの白星をつかんだ。
10試合を終えて3勝4分3敗の暫定11位と、出遅れたのは否めない。「本当にお待たせしてしまって申し訳ない」とDF馬渡和彰。苦い敗戦から得た基準を緩めず、濃密な日々を積み重ねていけるかどうか。巻き返しの成否は、そこに懸かっている。
取材/大枝令