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【松本山雅FC】総力挙げて危機回避を

 松本山雅FCが、J2残留争いの渦中で苦闘している。30試合を終えた段階で6勝9分15敗(勝ち点27)にとどまっており、22チーム中21位でJ3降格圏内。6月に就任した名波浩監督が打ち出す「良い守備からの良い攻撃」をピッチ上で体現できず、失点がかさんで得点は取れない。それでも日々の取り組みの中から、一条の光を見い出そうと必死にもがいている。
 8月9日、リーグ再開初戦。山雅はアウェイでブラウブリッツ秋田と対戦し、4-1と大勝を収めた。中断期間中に取り組んできた攻撃の改善がハマるなどして一方的な展開。先制弾を決めた左ウイングバック前貴之は「順位も含めてなかなかメンタル的に厳しいものがあったが、中断期間がいいブレイクとなってまた気持ち新たにスタートできた。その気持ちが前面に出ていたし、チーム全体として勢いも出せていた」と納得の表情を浮かべていた。
 だが、以降は苦難続きだった。京都サンガF.C.戦が悪天候のため中止となり、次節は2週間後の愛媛FC戦。一方的にボールを握ってゴール前まで迫るもののネットを揺らせずにいると、数少ないカウンターのピンチを決められて0-1で敗れた。続く大宮アルディージャ戦も0-4。残留争いをする愛媛、大宮との「シックスポイントゲーム」で2戦2敗と苦汁をなめさせられた。前のほかMF安東輝、DF星キョーワァンなど軸となる選手が次々と負傷・故障で離脱する不運も重なった。
 だが、明るい材料が何もないわけではない。昨季まで4年間在籍したMFセルジーニョが再加入した。背番号10を背負い、「山雅はここにいるべきチームではないと感じている。自分のベストを出し尽くす」と、攻守にエネルギッシュなプレー。このほか左膝前十字靭帯損傷などでリハビリを続けていたFW山口一真も実戦に復帰した。高精度のキックやプレースピードの速さなどで違いを見せている。
 さらに名波監督は、トレーニングで継続して好パフォーマンスを発揮した選手を見逃さずピッチへ送り出す。象徴的なのはFW榎本樹だ。昨季10月を最後に公式戦から遠ざかっていた高卒3年目のストライカーを第30節ツエーゲン金沢戦でベンチに入れ、79分から投入。すると92分、その榎本がヘッドを決めて同点としたのだ。金沢とも勝ち点差が1で、絶対に敗れてはいけない一戦。0-1でさらに1人少ない圧倒的な窮地から、起死回生の同点弾を決めてみせた。
 引き続き苦境にあることは疑いの余地がなく、このまま熾烈な生存競争を勝ち抜くしか道はない。だが、劇的な幕切れとなった金沢戦のように、山雅はまだ戦える。勝ち残れる。試合数が減るごとに緊張感は増すが、自分たちの力を信じて戦い切るのみだ。

<取材/大枝令>
<写真提供/松本山雅FC>