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【スロープスタイルスキー・西陽彩】日本期待の13歳中学生スキーヤー 海外体験で視線は世界へ

昨年8月19日から3週間、南半球のニュージーランドに渡り、滑りを磨いた。そこでワールドカップ出場を目指す世界中の猛者たちが集うコンチネンタルカップに最年少の13歳で出場。日本人の中学生では初の縦2回転、横3回転の「ダブルコーク1080」を左右でメイク(成功)し、Bグループの8位に食い込んだ。五輪選手も出場した大会での大技成功に、日本人コーチは「8年後(の五輪)が楽しみ」と唸った。本人は初の海外パークに「25m以上もある大きなジャンプ台にビビった。腰が引けないように必死だった」と、少しはにかむが、中学生離れした抜群の運動能力と、「極度の負けず嫌い」という強い気持ちでメイク。その瞬間、思わずガッツポーズが出た。海外勢との差も痛感した大会だったが、「自分を表現できた。とてもいい経験になった。将来はナショナルチームに入り、まずはワールドカップでポイントを取りたい」と、前向きに〝世界〟を意識するようになった。

 スロープスタイルスキーは、スキーで滑りながら、パーク上に設置されたキッカーやジブと呼ばれる障害物を使って回転やひねりなどのアクロバティックな技を行う採点競技。6歳でアルペンスキーを始めたが、フリースキーの体験会に参加したのをきっかけに転向、すぐに野沢温泉で開催された大会の小学1・2年生の部で優勝した。昨季の地元・戸隠の大会ではU-12で優勝を飾っている。
 小学4年生からプロスキーヤーの兼高典生さんの指導を受け始めた。冬は毎週末、北志賀の高井富士のほか、岐阜県にある鷲ヶ岳スキー場に父親の忍さんの運転で出かける。夏は学校が終わり次第、小布施町の練習場へ。帰宅は夜の10時近くだ。土日は愛知県にある施設に行くことが多い。「ジャンプや回転では恐怖感も大きいけれど、何度も繰り返し練習することで克服するしかない」と練習量を増やすことを課題にする。車の運転と動画撮影をする忍さんは「夏は安全なエアマットがある施設で思いっ切り練習させたい。それが冬場の滑りにつながる」と、老舗そば店を営む傍ら全面的にサポートする。今季3月には「全日本スキー選手権大会フリースタイル競技」に初出場し、高校生やシニアと競う。
 日本の中学生の中ではトップをひた走るが、同年代のライバルの登場を期待する。「もっと競技人口が増えてほしい。そうすればライバルも出てきて、切磋琢磨することでもっと高いレベルに行けるはず」。スロープスタイルのヒーローとして世界一を目指す。

【PROFILE】
西陽彩(にし・ひいろ)
2009年7月3日、長野市戸隠生まれ。小学1年生で戸隠ジュニアスキークラブに入り、フリースキーを始め、その年の野沢温泉コンパスカップアンダー8の部のスロープスタイルで優勝。将来の海外転戦に向け、大の苦手の英語にも奮闘中。名前の陽彩は父親の忍さんが、英語のヒーローと大和言葉の数(ひ・ふ・み)の一番目の〝ひ〟からとった。ジャパンナショナルチーム強化拠点選手

取材/斉藤茂明