「競技者であること」は、プロアスリートを目指す以外にも多くの可能性を秘めている。「将来的には『スキーが好きだから』という学生が集まる場所にしていけたら」とほほえむ吉田陽平専任講師(スポーツ健康学科)の研究室は、その可能性を育むための貴重な土壌である。
主な研究テーマはスキーの滑走動作を三次元的に解析する動作分析で、三次元画像解析法を用いて選手の姿勢の変化やスピードなどを科学的に分析する。具体的には反射マーカと呼ばれる印を関節などの特定の部位に取り付け、カメラで撮影した映像を取り込んで定点の動きを解析する、いわゆるモーションキャプチャーと同様の手順を取る。たとえば熟練のプレーヤーの滑走動作を解析し、他のプレーヤーとの比較を踏まえつつ「なぜ上手なのか」といった根拠を科学的に明らかにしようと試みる。もちろんスキー以外のスポーツにも適応可能で、ゼミ活動では学生の要望に合わせ野球や陸上競技等の動作分析も行う。
「スポーツを科学的にとらえることは学生本人の競技活動に活かせるし、指導者としてコーチングに活かすことができる」と吉田講師。自身もスキーヤーであり、スキーの技巧を競う全日本スキー技術選手権大会への出場経験を持つ。採点基準の科学的根拠を意識したことが研究に結びついたといい、「スポーツ経験を生かしつつ、科学的根拠を持って対象者の身体を見ることができたら。そういう視点を学生たちには持ち合わせてほしい」とうなずく。「たとえばスキーを実際にプレーする学生がゼミに来て、学んだものを持って指導現場へと戻っていくかもしれない。そうした科学的知見を持つコーチが増えていってほしい」と願いを語る。
2023年度のゼミ生は12名。新年度は、16名となり新3年生の多くは、スポーツの動作分析が実践できることに興味を惹かれて所属を希望。スキーという競技の特性上、動作分析の可能な期間は限定的であり、かつ広範囲な屋外となるため、こうした取り組みのできる研究室は国内でも多くない。松本大学にとっても動作分析を取り扱うのは吉田ゼミが初であり、学生たちにとって貴重な学びの機会となっている。
「今しかやれないことに挑戦し、追求してほしい」。学生たちにそう望みつつ、吉田講師は自身を振り返る。プロへの道を諦めて大学進学し、所属した研究室で「研究者」としての道を志した。大学院修了後は小学校教諭として「指導者」の道もひらき、現在は研究のかたわら教員養成も担う。スキーヤーという経験から様々な可能性をひらく講師のもと、集う学生たちの未来は選択肢にあふれている。
Profile:
吉田 陽平(よしだ ようへい)
愛知県名古屋市出身。信州大学教育学部、信州大学大学院(教育学修士)を経て長野県内の公立小学校に勤務。2023年度より松本大学人間健康学部スポーツ健康学科専任講師として従事。スキーを愛好し、高校卒業後より白馬村やニュージーランド、山形県の月山スキー場などで競技に取り組む。大学進学後はスキー滑走動作のバイオメカニクス、学校体育教材の開発・動作分析をメインテーマに研究を開始、現在も継続。
取材/佐藤春香