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荒波を乗り越えて 1年目でベースを築く

「かなり伸びたチームなのではないかと思っている」。シュタルフ悠紀リヒャルト監督は、J3リーグ最終節・藤枝MYFC戦後にそう手応えを語った。新指揮官のもとで再出発を図ったAC長野パルセイロ。紆余曲折がありながらも、着実に前へ進んだ一年だった。

 開幕から4試合は負けなしだったが、第4節・福島ユナイテッドFC戦で右サイドバックの船橋勇真が負傷。手薄なポジションのレギュラーを欠き、センターバックの池ヶ谷颯斗や左サイドバックの杉井颯をコンバートせざるを得なかった。第8節・アスルクラロ沼津戦からは5試合勝ちなしと苦しんだが、従来の4―3―3から4―2―3―1に布陣を変えて好転。前半戦を終え、昇格圏内の2位と勝ち点10差の7位につけた。

 しかし困難は続く。センターバックの喜岡佳太がJ2・モンテディオ山形に移籍。またも手薄なポジションに穴が空いたが、代役を担った秋山拓也の奮闘も見られ、一時は4連勝を果たす。船橋の再離脱もあったが、それを機に新布陣にも挑戦。攻撃時は4―2―3―1、守備時は3―1―5―1の可変システムにたどり着いた。


 昇格圏内に虎視眈々と迫る中、第23節の首位・いわきFC戦で0―1と惜敗。大一番で勝ちきれず、第24節・岐阜戦が生き残りを懸けた正念場となった。0―0で試合が推移する中、83分にFKから乾大知のヘッドで先手を奪う。しかし終了間際、相手のシュートを秋山が胸で防いだが、無情にもハンドの判定でPKを献上。土壇場で1―1に追いつかれ、勝ち点3を逃した。その後は3試合勝ちなしで、昇格戦線から大きく後退。第31節・松本山雅FCとの“信州ダービー”で敗れ、昇格の可能性が完全消滅した。
 ケガや判定に苦しんだ一方で、可変システムは成熟度を増していった。攻守で目まぐるしく立ち位置を変え、攻撃時には人数をかけて前に出る。第26節・アスルクラロ沼津戦から8試合連続得点を記録するなど、一定の成果が表れた。ゴール前での決定力は課題として挙げられるが、そこに至るまでの過程はリーグ屈指のクオリティと言えるだろう。

 14勝10分10敗の8位。昨季は9位だったが、今季は2チーム増えた中でも一つ順位を上げた。「これでスタートラインが一つ高くなったので、また上を目指して足りない部分をやっていくしかない」とシュタルフ監督。1年目の航海は荒波の連続だったが、それを乗り越えて前進した。雲の隙間から見え隠れする目的地は、そう遠い距離にはないはずだ。

取材/田中紘夢
撮影/相野田祐静