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理想か、現実か。AC長野、指揮官の「変化」

理想の追求か、現実に向き合うか―。サッカーJ3に参戦して10年目を迎えたAC長野パルセイロ。悲願のJ2昇格を掲げて采配をふるう2年目のシュタルフ悠紀監督に変化が起きている。

 ドイツ出身の監督は高いポゼッション率(ボール保持率)で主導権を握る戦い方を身上としてきた。2019年にYS横浜で当時のJリーグ最年少となる34歳7カ月6日で監督デビューすると、3年目には運営費でリーグ最下位のチームを過去最高8位に引き上げた。
 その手腕を買われ、昨季AC長野の監督に就任。1年目は8位に終わったが、華麗なパスサッカーの完成度が高まる2年目に期待するサポーターもいただろう。

 ところが、今季は様子が違う。2-0で快勝した宮崎との開幕戦は新加入の進昂平が開始5分で先制点を挙げ、その後は守備に徹した。1-1で引き分けた第2節の愛媛戦も5バックで耐える展開。シュタルフ監督は「どこのチームも守備力が上がっている。ポゼッション率を上げても勝ち点に直結するとは限らない」。堅守速攻…。現実路線にシフトしたのか。

 だが、目を凝らしてみると〝理想〟も見えてくる。昨季、最終ラインでビルドアップ(攻撃の組み立て)の土台を担った4バックを3バックに変更。1人余った分を前線に回し、5人のアタッカーでゴールを襲う。実は「超攻撃的」なシステムでもある。

 指揮官いわく「賢守猛攻」。試行錯誤で導入した新戦術は、昨年のW杯カタール大会の影響が少なからずある。日本やアフリカ勢で初めて4強入りしたモロッコは堅守をベースに、ボール保持率で上回るドイツやスペインを破り、称賛を浴びた。シュタルフ監督は「日本では(内容よりも)結果が最重視される傾向にある。自分が価値を見いだしてきた『魅せるフットボール』という内容よりも、結果を重視した方が良いのかな」と葛藤したという。

 とはいえ「自分は理想家。見ている人にサッカーの面白みを伝え、選手にも楽しんでほしい。今季は結果と理想と両立させる」。得点を量産してサポーターを魅了し、J2昇格をつかむ。その決意を表現した形が、今季の戦い方なのだ。
 しかし、新戦術はまだ発展途上だ。ホーム開幕戦の第3節はビルドアップでパスミスを連発し、JFLから昇格した奈良に0-3で完敗した。シュタルフ監督は「シーズンは始まったばかり。焦りを感じる必要はない。信じる道を突き進む」。理想と現実の合作を完成させた時、目の覚めるような快進撃が待っているのかもしれない。