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橙のスタジアムに緑の旋風 新たな地平を切り開く

大一番で、圧巻のパフォーマンスを披露した。図らずも11年ぶりに実現した信州ダービー。松本山雅FCはゴールだけが奪えず画竜点睛を欠いたものの、攻守とも高い強度を保ってプレーを遂行した。今後への展望が大きく開けた一戦と言え、名波浩監督はAC長野パルセイロにも言及しながら「両クラブが今後飛躍的に伸びるだけの要素が凝縮された90分だった」と総括した。
 指揮官は試合に先立ち、ダービーマッチの重要性を選手たちに口酸っぱく伝え続けていた。自身が日本代表としてピッチに立った日韓戦をはじめ、国内外のダービーがどのような位置付けのゲームであるのか。自身の豊富な経験をベースに熱弁した。
 心身ともに万全の準備を整えて戦闘態勢に入り、長野Uスタジアムに乗り込んだ。オレンジ色のサポーターに三方を取り囲まれ、大音量のハリセンクラップが鳴り響く。しかし山雅も、公式発表で3,219人のサポーターが来場。Jリーグ参入を我先に争った往時とはまた一味違う、「信州ダービー新章」と呼んで差し支えない熱狂の中でキックオフを迎えた。
 前半は長野が引き気味に構えたことも相まって、ボールを握って主導権を確保した。特に安東輝、パウリーニョの実力派ボランチ2人が目を見張るような好パフォーマンス。球際で獰猛に戦って刈り取り、奪ったらすかさず高精度のパスを前方へつないでショートカウンターの初手となった。「セカンドボールの回収もそうだし、連続で攻撃できるようなイメージでいた」と安東。その言葉通り、存分に役割を全うした。

 後半は長野が元山雅の宮阪政樹を中盤の底に置き、攻勢を強めてくる。ここで素晴らしい対応を見せたのが守備陣だ。大野佑哉と常田克人のセンターバック2人を軸に隙を見せず、セットプレーのピンチではGKビクトルが好セーブ。大野は「きょうみたいな試合で戦えない選手はプロではない。戦う部分に関してはみんなができていた」と胸を張る。交代出場の宮部大己も対面の相手をシャットアウトした。


 これで公式戦4試合連続の無失点。昨年6月に名波監督が就任して以降は失点続きだったのが、ぴたりと水漏れが止まった。常田は「90分を通して全員が集中を切らさなかった。それに加えてダービーということで、プラスアルファの力が出たと思う」と息をついた。
 もちろんダービーは勝利が至上命題で、肝心のゴールがなくドローに終わったのは不本意。だが、特別な舞台設定の中で好パフォーマンスを見せた。長野が触媒となって引き出された高水準のプレーを今後も続けていけば、おのずとJ2返り咲きは見えてくる――。そう信じるに足るだけの、充実した90分間だった。

取材/大枝令