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大逆転昇格を目指して 熾烈なクライマックスへ

わずかな可能性に懸けて、終盤戦をフルスロットルで駆け抜ける。松本山雅FCは9月25日のYS横浜戦から3試合勝ちなしと足踏みし、一時はJ2昇格圏内の2位に勝ち点差5の4位まで後退。異常なペースで勝ち点を稼ぐ上位陣の背中を必死に追いながら、熾烈なクライマックスに身を投じている。

 10月9日、藤枝総合運動公園サッカー場。4位の山雅は、勝ち点差1で追う3位藤枝MYFCとの直接対決に臨んだ。勝てばひっくり返すことができるが、それ以外の結果だとたちまち苦しくなる。山雅は1,522人が押し寄せたサポーターの力も借りながら、序盤から優位に立ってゲームを支配。MF菊井悠介やFW横山歩夢、MF佐藤和弘らがビッグチャンスをつかむ。
 しかし、最後のゴールだけが決まらない。そして手をこまねいている間に、恐れていた事態が起こってしまう。終了間際の88分、自陣左サイドのスローインから失点。この一撃が決勝点となり、山雅はビッグゲームを落とした。
 だが、山雅はここで膝を折らなかった。直後の記者会見。名波浩監督は「ここでバラバラになってはいけない。このミーティングが終わった1秒後から次に向けての準備をしないといけない――と、強く選手たちに伝えた」と力強く話した。実際、その次の試合に向けたトレーニングはポジティブな雰囲気と気迫に満ちる充実の内容。DF野々村鷹人は「全部勝つしかないという厳しい状態だけど、それでもみんな前向き。『一つひとつ修正していこう』という雰囲気でいいトレーニングができた」と声を弾ませていた。

 そして迎えた第29節・FC岐阜戦。この試合も山雅がゲームを支配するが、前半にCKの一撃で手痛い先制点を許してしまう。今季それまで、逆転勝ちは2回だけ。ビハインドを背負うと守備意識を高めた相手を崩せず、焦りからチグハグになるケースも見られていた。
 だが、この日は違った。救世主が現れたのだ。後半開始から投入されたMF田中パウロ淳一。48分、同じく後半からピッチに立ったルカオのパスを受け、利き足の左を振り抜く。これが狭いコースを縫ってゴールに突き刺さった。
 さらに71分。今度はDF常田克人の左クロスにファーサイドで合わせ、気迫でゴールにねじ込んだ。田中パウロは今季それまで出場わずか3試合のみ。しかし崖っぷちでピッチに送り出され、大仕事をやってのけた。

 「ここまで支えてくれたチームのために点を決めないといけないという気持ちだった。チャンスはあっても点を取れないのが前の試合でも続いていたので、どんな形でも良いから点を取りたかった」と喜びを口にした。

 この試合では長期離脱から復帰したDF篠原弘次郎が1年半ぶりとなるリーグ戦のピッチに立って安定したプレーを披露。ジョーカー・田中パウロの活躍も含め、シーズン大詰めに来て明るい材料が次々と出てきた。この勢いをさらに加速させ、全勝での大逆転昇格――という奇跡のシナリオへの道筋を描きたい。

取材/大枝令