医療コラム

人間万事塞翁が馬vol.1 体幹の筋肉は、未来のために働いている

みなさんはじめまして。今月号よりコラムを担当することになりました、百瀬能成(ももせたかしげ)といいます。スポーツに関するケガや病気、これらの予防に必要な知識について、日々の診療やスポーツ現場で経験した様々なエピソードもふまえつつ、わかりやすくお伝えします。スポカラをご覧になられる長野県内のスポーツ選手、その親御さん、また指導者の方々に、地元のスポーツを支えるドクターの視点で情報を発信していきたいと思いますので、興味を持っていただけたら嬉しいです。どうぞよろしくお願いします。

 さて、スポーツの現場で「体幹トレーニング」という言葉をよく耳にします。体幹とは、両側の手と足、頭部を除いた胴体の部分ですね1)。でんでん太鼓に例えると、くるくる回す棒の部分にあたります。太鼓の棒がよじれて曲がっていたり、ぐにゃぐにゃと柔らかく安定しないと、効率よく太鼓を奏でることができません。スポーツで手や足を効率よく使うためには、体幹が安定して、正しく機能していることが重要。体幹の強化は、ケガの治療やリハビリの際にも積極的に行われていて、スポーツ選手がケガから復帰するときにも必ず「体幹トレーニング」が用いられます。体幹の機能を強化することは、スポーツ活動中のケガ予防にも有効で、パフォーマンス向上も期待できるため、いまや多くのスポーツ現場で日常的に取り入れられています。ではなぜ体幹トレーニングがケガの予防に適しているのか、解説していきたいと思います。

でんでん太鼓

 体幹を構成するおなかの筋肉に、腹横筋(ふくおうきん)という筋肉があります。この腹横筋にはフィードフォワードという機能があって、手や足を動かす際に、必ず手足の筋肉に先立って体幹を安定化させるために動き出します2)。フィードフォワードとは、まだ見ぬ「未来」に向けて解決策を提案し、行動をおこすという意味ですが、たとえば、サッカーで「ボールを蹴る」という動作をする場合、足を振るために股関節や大腿の筋肉が働く直前に、必ず腹横筋が働きます。それによってまず体幹が安定し、遅れて足の筋肉が働くことで、効率よく足を振れ、ボールを蹴るという動作が行われるのです。腹横筋は、手足の機能を最大限に発揮するために「未来に向かって」働いてくれる筋肉。腹横筋が十分機能している状態では、体幹は安定し、効率よく手足を動かすことできますが、逆に腹横筋の機能が不十分であると、体幹は不安定となってしまい、他の筋肉や手足にむだな動きが生じ、それを代償する動作が増え、疲労が溜まり、痛みやケガの原因となるわけですね。だから体幹を強化し、腹横筋の機能を鍛えることはケガの予防に有効なのです。

 新年度がはじまり、みなさんは新たな夢や目標に向かって日々トレーニングに励んでいることと思います。新たな未来へ向かって、夢を叶えるために努力することは本当に素晴らしいですね。みなさんの未来のために働く腹横筋をしっかり鍛えて、ケガに負けない体づくりをしていきましょう。

体幹を構成する腹筋群 腹横筋は体幹の深層で機能している

1)中村隆一 基礎運動学(第4版)医歯薬出版株式会社P234-252
2)P W Hodges, C A Richardson Contraction of the abdominal muscles associated with movement of the lower limb. Phys Ther. 1997 Feb;77(2):132-42; discussion 142-4.

▶PROFILE

百瀬 能成
一般社団法人MOSC 百瀬整形外科スポーツクリニックの院長。
スポーツの世界に「Player’s first(プレイヤーズ・ファースト)」という言葉があるように、患者様を第一に考える「Patients’s first(ペイシェント・ファースト)」を理念として、スポーツ傷害や整形外科疾患の治療にあたる。松本山雅FCチームドクター。医学博士。