春になると、木々は一斉に葉を広げます。枝先に芽吹く若葉は一見ランダムに生えているように見えますが、実は一定の法則に従って並んでいます。葉や枝の配置をよく観察すると、一定の角度を保ちながら互いに重なりにくい構造をしていることがわかります。枝葉は約137.5度という角度で配置され、この角度は「黄金角」と呼ばれ、フィボナッチ数列とも深い関係があります。(図1)

図1 フィボナッチ数列と枝葉の配置の関係
その結果、葉は互いに重なりにくく成長し、光を均等に受けやすい配置となります。葉の並びだけでなく、松ぼっくりの表面やひまわりの種の並びにも、フィボナッチ数列と関係する螺旋パターンが観察されます。自然の形には、このような数学的な規則性が見られることがあるのです。葉脈の広がりもまた、それぞれの役割に応じた規則性を備えています。枝は空間を立体的に広げながら光を受ける位置を確保し、葉脈は網目状の構造によって水分や養分を葉全体に行き渡らせています。(図2)自然の形は感覚的に美しいだけでなく、機能を最大化するための合理的な構造として形づくられているのです。

図2 葉脈
人体の肺にも、これとよく似た構造があります。呼吸の際、吸い込まれた空気は気管を通り気管支へと入りこみますが、気管支は何度も分岐を繰り返しながら細くなり、最終的に無数の肺胞へと到達します。気管支の枝分かれする角度は黄金角と異なりますが、この分岐構造によって、胸郭という限られた空間の中に多数の肺胞が配置され、広いガス交換面積が確保されています。(図3)枝葉の広がりと肺の分岐は、いずれも「空間を効率よく使う」という共通の原理に基づいています。
また、栄養を消化吸収する腸管にも同様の構造がみられます。小腸の粘膜には輪状のひだが存在し、その表面には絨毛と呼ばれる指のような突起が密に並んでいます。さらに、それぞれの絨毛の表面には微絨毛と呼ばれる極めて小さな突起が無数に存在しており、この階層的なひだ構造によって腸管の吸収面積は著しく拡大され、栄養素はこの広い表面を介して体内へ取り込まれます。
肺はガスを交換し、腸は栄養を吸収します。役割は異なりますが、いずれも、限られた空間の中で立体的に広がることで、必要な表面積を確保するという共通の原理に基づいています。自然界の木々は枝分かれによって葉を広げ、光合成を行って糖を生み出し、それが私たちの栄養となります。私たちが呼吸で排出した二酸化炭素は植物に取り込まれ、光合成の材料となります。呼吸と栄養は、生命の循環の中で静かに結びついているのです。
呼吸を整え、食事を大切にすることは、単なる健康管理ではありません。それは競技力を支える最も根源的なトレーニングともいえます。どれほど強い筋力と高度な技術を獲得しても、体内に十分な酸素が供給されず必要な栄養が吸収されていなければ、その力は十分に発揮されません。浅い呼吸や不安定な栄養状態は、知らず知らずのうちにパフォーマンスを制限し、一方で、深く安定した呼吸と良好な栄養状態は、スポーツにおいて安定したパフォーマンスを支えます。
春は、別れと出会いの季節。環境が変わり、目標が変わり、新しい挑戦が始まる時期でもあります。新しいトレーニング理論や戦術が生まれても、呼吸と栄養という身体の本質は変わりません。若葉が芽吹くこの春に、まずは自分の呼吸に意識をむけ、日々の食事を見直してみてください。競技力の向上は、原理原則を大切にするところから始まります。

図3 肺の構造
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▶PROFILE 百瀬 能成
一般社団法人MOSC 百瀬整形外科スポーツクリニックの院長。
スポーツの世界に「Player’s first(プレイヤーズ・ファースト)」という言葉があるように、患者様を第一に考える「Patients’s first(ペイシェント・ファースト)」を理念として、スポーツ傷害や整形外科疾患の治療にあたる。
松本山雅FCチームドクター。医学博士
