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【松本山雅FC 神田渉馬】ポテンシャルを秘めた アカデミー育ちのGK

「その瞬間」は、思いのほか早く訪れた。
 7月31日、J3第19節ヴァンラーレ八戸戦。試合2時間前に発表されたスターティングメンバーの先頭に、「GK 神田渉馬」の名前が燦然と輝いていた。新型コロナ陽性者が立て続く苦しいチーム事情が背景にはあったものの、それだけの力があると認められたからこその先発起用。プロ2年目で初めて公式戦のピッチに立った。
 「急に出番が来たので、心の準備はいつもしていたけどびっくりはした。試合に出たいという気持ちを持ち続けて、継続してやってこられたのがデビューにつながったと思う」
 23分、CKから打たれたシュートをファインセーブ。「試合が進む中で緊張もなくなってきて、ピッチに立つのが楽しいという感覚になった」と振り返る。しかし54分、再びCKからイレギュラーな形で失点を許してしまった。試合はこれが決勝点となり、0-1の黒星。ほろ苦いデビュー戦となった。

 結果だけでなく、個人的なパフォーマンスの面でも課題が残った。何より、得意なプレーを出せなかったことが大きい。
 本来なら長い腕を生かしたクロス処理は得意なプレーだったはずだが、この試合ではクロスに対して飛び出す選択肢を取れず。「失点の場面も積極的に出れば処理できた」と唇をかむ。ビルドアップにしても同様で、大きく蹴り出して結果的に相手ボールになるのが大半。「もっと落ち着いてやれば全然回せる――と、味方からも言われた」と話す。
 それでも、長らく目指していたサンプロ アルウィンのピッチに立てた。小学校2年生からサッカーを始め、南松本サッカースポーツ少年団に所属。鎌田中時代は松本山雅FCのU-15でプレーした。この3年間で身長が一気に20センチも伸びて182センチとなり、プレーヤーとしても台頭。3年時には明確にプロを目指すようになった。
 「トップチームの試合を見に行って、そこでプレーしたいという気持ちがあった。ユースに上がる決断をすることで、もうプロの意識が芽生えるようになった」
 意識の変化に伴って行動も変容した。技術やフィジカルの向上により力を傾けるようになっただけでなく、ピッチ外でも山雅のウェアを着て街の中を移動するときや学校内での振る舞いが変化。「周囲の目を意識するようになった」という。松本において絶大な知名度を持つクラブの一員として、自ら律する日々を送った。
 プレー面では、現在にも通じるスタイルを確立。「足元はずっと自信を持ってやっていた。身長があるのでクロス対応を武器にしようと思って、中学と高校で得意になった」と振り返る。トップチームの練習に参加してスピード感に慣れ、シュートストップも得意になったという。

 その半面、最後尾からの発信は成長途上。振り返ればU-15時代、当時の柴田峡監督(現ラインメール青森監督)に「声を出すように」と口酸っぱく指導された。「柴田さんから言われたことは響くし、その当時は怖かったけどアドバイスをくれた」。現在もビクトル、村山智彦、薄井覇斗の年上のGK3人が堂々とコーチングしたり鼓舞したりと声を出しているのに対し、神田が発するそれは控えめとなっている。
 記念すべきプロ初舞台の経験を糧に、さらなる成長を期す神田。小松、稲福らとともにアカデミー出身者であることも深く自覚している。
 「アカデミーの選手にとっていい刺激にもなれればいいし、松本出身なのでサポーターから応援されていることも感じる。その応援に応えられるように、スタメンを取れるように頑張りたい」

PROFILE

■神田 渉馬(かんだ・しょうま)
2002年7月9日生まれ、長野県松本市出身。開明小2年のとき、友人に誘われてサッカーを始めた。4年からGK。ジュニアユースから松本山雅FCのアカデミーに入り、昨季にトップ昇格を果たした。長い手足を生かしたプレーとビルドアップが持ち味。187cm、75kg。

取材/大枝令