医療コラム

うすい院長のひとりごとvol.1  ケガと故障の考え方

日々スポーツに関する診療を行っているなかで、お子さんやご家族から聞かれることが多いものにつきまして、医学的な根拠に私個人の見解を添えて紹介していきます。
第1回の質問は「うちの子、運動やっていいですか?」です。
 質問にお答えするにあたって前提となる考え方があります。それは「スポーツによる痛みには『スポーツ障害』と『スポーツ外傷』があり、それぞれに治療方法や運動してよいかどうかが異なってくる」ということです。簡単に表にまとめましたが、「繰り返しの負担によりおこる⇒障害」と「一度の(強い)外力によりおこる⇒外傷」があるのです。状況によって「痛みと相談しながら運動してもよさそうだ」「この状態なら休んだ方がよいだろう」という判断になります。
 まずはスポーツ障害ですが、たとえば繰り返しの投球により肘に負担がかかって痛むという野球肘の場合は、「なぜ肘に負担がかかっているのか」全身を診察します。軸足が上手に使えていない、肩の動きが落ちているなどの原因があり、結果的に肘が頑張りすぎてしまって炎症を起こしているものが多いです。この場合は理学療法により、原因を解決させるために軸足を使えるように運動療法を行ったり、肩や肘のストレッチを行うことにより症状の改善が見込めます。全力では投球できない可能性はありますが、痛みに応じて5割くらいなら投げられるのではないか、7~8割で投げても大丈夫なのではないかという判断をします。スポーツ障害の場合は、よほど痛みが強くない限りは適切な治療をしながら運動を続けていけるのではないかと考えています。
 一方スポーツ外傷の場合、急性期にはまずRICE処置(安静、冷却、圧迫、挙上)が基本です。場合によっては固定も行います。組織の回復を促進させるために患部に微弱な電流を流したりもします。たとえば捻挫でも腫れが強くない軽度の状態であればテーピング固定などをしてプレーは可能でしょう。しかし腫れが強く激痛を伴い、歩行ですら困難なレベルであれば、当然プレーは控えた方がよいでしょう。しかし、なかには骨折していても「来週の大会には絶対出たい」という選手もいます。こういうときは、リスクについて説明したうえでプレーしてもらうしかないのですが・・・

 以上のように「スポーツ障害かスポーツ外傷か」、「痛みの程度はどうか」、「チーム事情や試合、大会のタイミング」などから総合的に判断してどのようにプレーをしたら良いものかをアドバイスさせていただいております。これから大事な大会が入ってくるシーズンになります。最後まで全力でプレーできるよう祈っております。

       スポーツ障害                     スポーツ外傷
●受傷機転   繰り返しの負担によりおこる             一度の外力によりおこる
●例      野球肘、テニス肘、オスグッド、疲労骨折       骨折、脱臼、打撲、捻挫、肉離れ
●治療      リハビリテーションなど              まずはRICE処置
●運動の可否   痛みに応じて行う                 場合により休養も検討

▶PROFILE

薄井 雄企
松本市の整形外科・リハビリテーション科うすいクリニックの院長。 2 名の医師、6 名の理学療法士が在籍し、「手術をせずに、いかに治すか」 をモットーに一般整形外科の診療・スポーツ選手の治療を行っている。 学生時代は野球部。