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【横浜DeNAベイスターズ・牧 秀悟】燦然と輝くハマの星 信州からセ界に羽ばたく

信州が誇る、若きスラッガーだ。
 プロ1年目の昨季は、記録ずくめのシーズンだった。開幕戦からクリーンナップに名を連ね、快音を連発。8月25日の阪神戦では新人として史上初となるサイクル安打を達成した。10月からは4番に抜擢。横浜DeNAベイスターズの球団新人最多安打、セリーグ新人最多二塁打、NPB連続打席二塁打の記録をそれぞれ樹立した。
 シーズン終了後にはセリーグ新人特別賞を受賞。「いい形で(開幕)スタメンを勝ち取ることができて、非常にいい入り方ができた」と充実の1年目を振り返る。

 そして今季。プロ野球界で言われる「2年目のジンクス」を、そのバットで事もなさげに振り払っていく。特に右方向へ飛ばすバッティングは、嘆息が漏れるほどに鮮やか。例えば千葉ロッテとの交流戦では、プロ野球史上16人目の完全試合を達成した佐々木朗希の変化球を見事に捉えてライトスタンドに運んだ。
 「去年いろいろな経験をできて自信になっているので、去年ダメだった部分を今年は修正しながらここまで来られている。1打席目に凡退すると悔しいので次、打てるようにしなければいけない。気持ちを切り替えて臨んでいる」と涼しい顔で話す。
 6月17日現在、打率は.309でチームメイトの佐野恵太に次いでリーグ2位。本塁打16本は同3位、打点48も同2位と極めて高水準の数字をマークしている。落合博満氏以来となる右打者の三冠王獲得も、現実的な目標として視野に捉える。

 ただ、自身が重要視するのは打点。主砲として、チームに勝利をもたらす打者でありたいからだ。「個人としては打点にすごくこだわっているので、打点で一番を取りたい。まずチームを勝たせるためには点が必要。4番を打たせてもらっている中でチャンスがすごく多いので、チームを勝たせる一打を打ちたい」と力を込める。
 その土台は、生まれ育った信州の地で培った。小学校1年時にキングアニマルズで野球を始め、中学校時代は若穂リトルシニアでプレー。そして高校は、松本第一を選んだ。「すごく力をつけていたので、自分の代で初めて甲子園に出られたら――という思いがあった」と振り返る。


 しかし、その願いが叶えられることはなかった。3年最後のシーズン。春の大会では県を制覇したものの、集大成となる夏の大会は初戦で小諸商に1-3。まさかの初戦敗退で夢破れた。現在も含めて、野球人生の中で最大の落胆。「野球を続けるつもりではあったけど、すごく心が折れかけていた」と振り返る。

 それでも周囲の支えや励ましなどもあって再び前を向き、中央大学での躍進につなげた。「負けが多い3年間だったけど、あの時負けていたからこそもっと頑張ろうと思えた。他の人には負けたくないという気持ちになった」という。1年時から公式戦に出場し、首位打者やMVPなどを獲得。3年時には日米大学選手権の日本代表にも選ばれるなどめきめきと頭角を表した。
 そしてドラフト2位で横浜DeNAに入団し、進境目覚ましい現在に至る。信州で汗を流す子どもたちへメッセージを――と水を向けると、こんな言葉が返ってきた。
 「野球人口が少なくなっているけど、自分も長野県で野球がすごく好きだった。でも一人じゃ何もできなくて、チームメイトと手伝ってくれている人たちがいて今がある。いま野球に熱中している子どもたちがこれからもずっと野球が好きで、いろんな人たちと関わりながら楽しく打ち込んでもらえたら」
(取材/大枝令)

【略歴】
PROFILE 牧 秀悟(まき・しゅうご)
長野県中野市出身。1998年4月21日生。
南宮中時代は若穂リトルシニアでプレー。高校は松本第一に進んだ。3年間で甲子園出場は果たせなかったものの、自身は中央大に進んで活躍。首位打者、MVPなどを獲得したほか日米大学選手権の日本代表にも選ばれた。ドラフト2位で横浜DeNAに入団。1年目の昨季は打率.314、22本塁打、71打点をマークした。新人の3割20本は清原和博氏以来。右投げ右打ち、内野手。

取材/大枝令