高校スポーツ

【松本深志高等学校野球部】“文武不岐(ふき)”体現し日々邁進 夢の舞台を目指して

「ぼくたちは野球が好きだ」。グラウンド脇にあるベンチの上には、その一言が高く掲げられている。県下屈指の進学校で野球に取り組みたいと集う生徒は多く、毎年10人前後の新入生が入部する。春を待つ2月現在、総勢23人が早朝から声を出し合って練習に励んでいた。


 彼らは、机にばかり向かっているわけではない。「深志で野球をする、ということに意味があると思っている。皆ここで野球をやりたくて入ってきているのでレベルの高い集団になっているし、だからこそ勝てている。自分たちは『勉強の苦痛に耐えてきた』という精神力があるので、そこを活かして甲子園に行きたい」と、小澤侑吾主将は熱弁する。辰野町から進学し、1年生の頃からメンバー入り。双璧をなすエースの金子大智は千曲市出身で、ともにチームの柱となる存在だ。

 高い自律性と強い想いを抱いて、彼らは日々の練習に打ち込む。「練習時間を短く効率よくやりながら、進学も甲子園も目指す。東京六大学や筑波大学を視野に入れ、その先も野球を続けていくために、勉強というツールを使って行きたい大学に行けるのがうちの強みだと思う」。就任4年目を迎える清水雄一監督は目を細める。進学校だからといって、学業ばかりが本分ではない。「本気で」野球をする権利は彼らにもあり、どちらも全力で打ち込めるからこそ、自己研磨を惜しまない。

 同校が甲子園に出場したのは、旧制松本中時代の1947年のみ。昨年の第94回選抜高校野球大会では、「21世紀枠」の推薦校に選ばれつつも勝ち取れなかった。「初めて甲子園に手が届いたようだった」と、悔しさを嚙み締めた。「甲子園を『目指す』なんて言っていては辿り着けないし、近年はどの学校が行ってもおかしくない展開になってきている。公立高校である我々には、まだまだ執念が足りないと思う」と、指揮官はますます表情を引き締める。
 「勉強と野球を両立させて勝つ、というのはやっぱり気持ちいい」。小澤主将はそう言って白い歯を見せる。掲げるのは“文武不岐(ふき)”、すなわち「学問と部活動は一体であり、相乗効果がある」。その言葉を体現して夢の舞台をつかむ日まで、限られた時間をフル活用して研鑽あるのみ。桜とともにまだ雪も舞うグラウンドで、貪欲な高校球児たちは今日も汗を流す。彼らの、熱き夏に向けて——。


【清水 雄一 監督】
生徒たちが人間的に成長していく姿を見られるのは嬉しいし、やりがいがあります。今はもう昔の厳しい野球部のイメージとは違うので、ぜひ野球を続けてもらいたいです。


【小澤 侑吾 主将】
個人的な目標は、ホームランを通算35本まで伸ばすことです。チームとしては、まずは基礎を大事にして、一人ひとりが声を出して連携を強めていきたいと思っています。

取材・撮影/佐藤 春香