北アルプスの清らかな風が吹き抜ける長野県安曇野市。この街で、空手という武道を通じて家族の絆を深め、共に魂を磨き続ける親子がいる。小学5年生の双子の兄妹、小林賢侑と美侑歩。そして彼らを導きながら、自らも再び武の道に足を踏み入れた母の智代美さん。親子三人が「公和館 犀龍会道場」で一歩ずつ歩む道は、勝利の記録以上に、互いを思いやり、高め合う優しさと強さに満ちている。

物語の始まりは、身近な家族への憧れだった。賢侑は、空手に打ち込む長男の背中を追い、その凛とした姿に心を動かされた。一方、美侑歩は母がかつて手にした数々のメダルの輝きを目にし、自らもその重みを知りたいと願った。きっかけは違えど、兄妹の心には同じ「空手」という情熱の種が蒔かれたのだ。
2人の同志でもある母は、かつて学生空手界の頂点を極めた逸材である。一度は競技から退いたものの、道着に身を包み、懸命に突きを繰り出す子どもたちの純粋な姿に心を打たれ、27年ぶりに選手としての復帰を決意。令和5年度には熟練者全国空手道選手権大会40代女子個人形の部で第3位、世界大会4位という驚異的な結果を残した母の背中は、言葉以上に多くを語る。子どもたちはその背中を見つめ、母は子どもたちの成長を肌で感じる。この親子三位一体の切磋琢磨こそが、彼らの強さの真髄と言えるだろう。

実績もまた、日々の積み重ねを証明している。賢侑は2025年度、中信地区、長野県、そして北信越の各大会で見事に優勝を飾り、全国大会でもベスト16という堂々たる成績を収めた。美侑歩もまた、同年度の中信地区大会を制し、県や北信越で準優勝、全国ベスト16入りを果たすなど、兄妹で歩調を合わせるように着実に力をつけている。しかし、彼らが大切にしているのは数字だけではない。


家庭でも日々の自主練習を重ね、そこで学ぶのは「自ら努力する精神」だ。賢侑が全国6位に食い込み、美侑歩が初出場の北信越で頂点に立った経験は、自分の力で掴み取った努力の結晶である。空手を通して培われた礼儀、自信、そして自分の考えを堂々と表現する力は、彼らの人間性そのものを豊かに育んでいる。
この兄妹の最も美しいところは、その関係性にある。試合は男女別で行われるため、2人は競い合う敵ではなく、誰よりも理解し合える「最強の味方」なのだ。1人が勝てば共に喜び、1人が悔し涙を流せばその痛みを分かち合う。
将来、賢侑は「母のメダルの数を超え、空手の先生になること」を夢見ている。美侑歩は「理学療法士としてスポーツを頑張る人を支えること」を志し、空手で得た忍耐力をその糧にしている。
「お互いの良いところを認め合い、二人で協力して夢をつかんでほしい――」
母の願いを受け止めながら、安曇野の空の下、親子三人は今日も道場に立つ。空手という道を通じて結ばれた家族の物語は、一突きごとにその深みを増していく。

Profile
小林 賢侑(こばやし けんゆう)
空手
2014年10月30日生まれ。安曇野市出身。小学5年生。公和館 犀龍会道場に所属。3年連続で県・北信越の頂点を争い、2024年度は全国6位入賞。2025年度には中信・県・北信越の3冠制覇を成し遂げ、140名が競う全国大会でもベスト16に入るなど、県内屈指の実力者として躍進中
小林 美侑歩(こばやし みゆほ)
空手
2014年10月30日生まれ。安曇野市出身。小学5年生。公和館 犀龍会道場に所属。3年連続で県・北信越大会の表彰台に立ち、2025年度には中信地区大会で優勝。県・北信越でも準優勝を重ね、140名が競う全国大会でベスト16入りを果たすなど、安定した実力を発揮している
取材/児玉さつき
