地域スポーツ

【原少年野球クラブ】       「野球」を学ぶ唯一の場       ゼロから始めて「選手」に育つ

村にただ一つの少年野球チームで、子どもたちは「選手」に成長していく。原少年野球クラブは、原村に暮らす小学生にとって唯一「野球」というスポーツを学べる場だ。


「野球をやりたい」と思ったらこのチームに参加するより他はない。人口8,095人、小学校は1校のみで、チームメイトは全員が顔見知り。怖くてグラウンドに入れない日に始まり、おそるおそるボールに触れるのもみんなが通る道。やがて力強くスイングし、土ぼこりをまきながら本塁へ飛び込むようになる。


現在のメンバーは約20人。毎週土日に練習を行う深山農村公園は標高1122.4mで、近隣には別荘地が広がる。高原の空気と新緑に包まれたグラウンドに、快活な声が響きわたる。
「このバッター、いいバッターだよー!」
「めっちゃいい球いってるよー!」
ポジティブに声をかけ、互いにフォローし合い、笑顔が絶えない風景がそこにはある。コーチたちの真似をして自然にそうなっていったといい、そんな仲間に囲まれて新たな芽も次々育っていく。


「みんな優しくて楽しくやれる」と話すのは、4年生の杉野正宗くん。自宅は愛知県で、両親の別荘のある原村で見たチラシをきっかけに参加。「ずっと野球チームに入りたかった。ここは強い人がいっぱいで、皆が仲良し」とうなずく。試合では上級生が自主的に声を出して守備位置を調整したり士気を高めたりするなど、チームワークは抜群だという。
「楽しい」だけで満足していた雰囲気が変わったのは近年。以前はローカル大会の初戦で惨敗しても「楽しかった」と笑って帰る日々だった。当時のコーチであり現監督の中楯秀昭さんは、「選手たちに気持ちの強さを教えたい」という思いから彼らと向き合って話をしたという。
「子どもたちに聞いたら『勝ちたい』『強くなりたい』と言った。なら『サポートするからみんなでがんばろう』と」。そうほほえむ中楯さんは、監督就任とともに指導陣一丸となって新チームを作っていった。楽しいだけでなく「勝つ」野球へ。星野仙一氏の「迷ったときは前に出ろ!」の言葉を繰り返し伝え、空振りしても「やれるじゃないか」と声をかけ続けた。

その成果として、昨年の第42回諏訪湖少年野球選手権ではベスト4に進出。子どもたちは優勝を逃した悔しさに涙したという。「もっと強くなりたい」と拳を握るキャプテンの宮坂透維くんは、より練習に励みつつ仲間を鼓舞し、リーダーシップも育む日々。「成長を感じてうれしい」と、中楯監督は目を細める。
初めて触れる楽しさから、勝利への貪欲さへ。6月1日には富士見ロータリークラブ旗富士見・原少年野球大会で優勝を飾り、ますます自信をつけた。野球の全てを学ぶことができるかけがえのない場所で、未来のスターたちは今日も汗を流す。


【宮坂 透維キャプテン】
昨年の6年生がすごくかっこよくて、「自分もああなりたい」と思ってキャプテンに立候補しました。もっとチームを引っ張っていけるように自主練をしたり、しっかり声を出したりしています。


【杉野 正宗くん】
コーチがやって見せて教えてくれるので、わかりやすくて自分に合っています。大会でどんどん勝って優勝したい。このチームは守りがすごく上手いので、もっとバンバン打って点を取りたいです。

取材・撮影/佐藤春香