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【信州大学教育学部附属松本中学校 女子バスケットボール部】短時間で効率的に 未来に生きる判断力を磨く

1分1秒たりとも無駄にはしない――。コートを駆ける選手たちは、きびきびと練習に取り組む。1時間にも満たない放課後の練習時間。指導歴20年のベテラン・小松正芳コーチが、息つく間もなく簡潔に明瞭な指示を飛ばしていく。「生徒たちに意欲がある限り、たとえ短時間であっても教え続けたい。やる気と向上心を持って取り組んでほしい」。限られた時間を効率よく活用し、メリハリをつけながらセルフマネジメント能力も身に付けていく。

 「毎日コーチが手厚く指導をしてくれるから、短い練習時間でも充実して過ごせている」と、朗らかに笑うのは酒井里菜主将。将来の夢は薬剤師だという。高校進学のさらに先をも見据えながら、バスケにも全力で向き合う日々。「皆でパスを出し合ってシュートが決まればうれしいし、練習でやったことを生かせたら楽しい」と目を輝かせる。短時間でも集中して好きなことに取り組むからこそ、自律心が養われていく。「入部すると自分で決めた以上、勉強と両立してほしい」と小松コーチは願いを込める。

 「バスケ以外にも通ずるもの」を念頭に、効率重視の指導を心がける。身体を動かしながらのスピーディーな勝負に求められる判断力は、机上では学べないものの一つだ。バスケットボールはコート内の状況を即座に把握し、自分自身で判断してプレーを選択する行為の連続。それはいずれ、狭いコートから広い社会へ飛び出していく上で頼もしい武器となり得る。指揮官は「勉強では学べない、部活でしか得られないものがある。高校、大学、社会人へと進んでいく中で生かせるものがあれば」と目を細め、進学校における部活動の意義を語る。

 勝つことが全てではない。大会制覇を目指すのでもない。それでも、勝負への意地はある。「強いチームをいかに苦しめるか。それも狙いの一つ」と、ベテランコーチは不敵に笑う。「賢者は強者に優る」――。アメリカの名指導者ピート・キャリル氏の著書タイトルを挙げながら、ジャイアントキリングへの意欲を示す。可憐な「賢者」たちにとって、番狂わせの歓喜も将来への糧となる。


【小松正芳コーチ】
相手も味方も見ながら、パス、ドリブル、シュートのどれを選ぶかは自己判断。コートの中で身に付けた判断力が、社会に出てから役に立てば良いと思っています。


【酒井里菜キャプテン】
1年生の頃に出た試合で、残り3秒でシュートを決めて逆転勝ちしたことは忘れられません。1つでも多くの試合ができるように、皆で「我武者羅(がむしゃら)」に頑張っていきます!

取材・撮影/佐藤春香