特集

【マウンテンバイク・北林力】「特別な地」に生まれ 夢の五輪へひた走る

悲願の大舞台に向け、ひたむきに疾走を続けている。マウンテンバイク(MTB)クロスカントリー競技の北林力。五輪4度出場のレジェンド山本幸平氏(松本市在住)に師事し、生まれ育った白馬村を拠点に力を蓄える。「小さい頃から何としてでもオリンピアンになりたいと思っていた」と力を込め、まずは2024年のパリ五輪出場を目指している。
 ニュージーランド人の父と日本人の母の間に生まれ、父の影響で幼少期からMTBに乗り始めた。高校まではアルペンスキーとの二刀流で、中学時代は全国中学大会で優勝した実力の持ち主。だが、「いろいろな場所を走れるので面白い」とMTBを選択。当時まだ第一線の現役選手だった山本氏の指導を受けながら、世界を目指し始めた。

 競技を続ける中でも、北林にとって五輪は最高に特別な舞台と言える。生まれ育った白馬村は、1998年の長野冬季五輪でスキーのアルペン、ノルディック複合、クロスカントリーの舞台となった場所。「白馬村にいると、五輪のマークが至るところにある」。おのずと自身もその舞台への憧れを強めた。山本氏が現役最後のレースとした東京五輪が終わると、「次は自分の番」と意識が高まり始めたという。
 白馬はスキーのメッカとして知られる傍ら、MTBパークも次々と誕生している。自宅の目の前には、テニスコートだった土地を改修した簡易コースも。「自分は不思議なくらい白馬村に執着している。ここに生まれなければMTBをやっていなかったはずだし、特別な地に住んでいると思う」と誇らしげだ。
 現在は今年1月に設立された「Athlete Farm SPECIALIZED」に所属している。山本氏が監督を務め、選手は北林と弟の仁の2人。「今までも(山本)幸平さんから指導を受けていたので、チームになっても変わらずにアドバイスを受けられる。1年目だけど安心感がある」と北林は言う。同時期にMTBを始めた弟については「切磋琢磨するというよりも仲間」。信頼を置けるチームメイトとともに、世界のトップ10入りを掲げている。

 今年から年齢制限のない「エリート」のカテゴリに上がり、9月までワールドカップ(W杯)を転戦した。1年目の今季は、UCI(国際自転車競技連合)ポイントがゼロからのスタート。「レースは一番後ろからだし、MTBはコースが狭いので抜くのも難しい。W杯に出ていても簡単ではない」と明かすが、「ジュニア時代もそうだった。パリに向けて焦りも少しあるが、だんだん上がってくると思う」と前を向く。
 スマートフォンのロック画面はパリ五輪のロゴで、自宅にはエッフェル塔の模型が飾られている。2024年に五輪初出場を飾り、2028年のロサンゼルス、2032年のブリスベンで上位に進出するのが理想。まずは“スタートの1年”である今季を、全力で駆け抜けていく。

北林力(きたばやし・りき)

1999年11月26日生まれ。白馬村出身。
ニュージーランド人の父と日本人の母を持つ。白馬中時代は全国中学スキー大会男子大回転で優勝。MTBでも各年代で全日本王者に輝いた。今季からMTBチーム「Athlete Farm SPECIALIZED」に所属。日本自転車競技連盟の強化指定選手にも選ばれ、2024年パリ五輪出場を狙う。180cm、70Kg。

取材/田中紘夢
©Yamamoto Athlete Farm