特集

【ノルディック複合・糸氏琉人】 W杯&五輪出場のレジェンドに続け 将来はジャンプの普及活動も

「明日から北海道なんですよ。基本、スマホ持ち込み禁止なので、フェリーの中で友だちとトランプやったり、話したり。これが楽しいんですよ!」。人懐っこい中学3年生。12月中旬から約2週間、大会出場を兼ねた合宿を北海道で行うため、新潟市からフェリーで向かう。そんなあどけない笑顔とは対照的に、スタートラインでの目つきはアスリート。見つめる先はジャンプ台の先にあるK点、さらにワールドカップ(W杯)出場を見据える。

 写真/斉藤茂明
 小学2年生の冬、ジャンプ体験会に初めて参加。「空中を飛ぶ感覚が単純に楽しかった」と、終了時間まで夢中で飛び続けた。3年生で地元・白馬村スキークラブに入って本格的にジャンプを始め、翌年には白馬村で開催された大会の小学3・4年生の部で初優勝を果たしている。
 中学生になるとそれまで続けていたサッカーとの二刀流をやめ、ノルディックスキーに一本化。県大会では昨季、スキージャンプとクロスカントリーの総合成績で競うノルディック複合で優勝を飾った。全国中学校大会では強豪・北海道勢の一角に食い込んで7位だった昨季を上回る、表彰台の中央を狙う。
 課題は「まだ大会では一度もできていない」という〝ベストジャンプ〟を飛ぶための集中力を磨くことだ。「足の裏の中心でしっかり雪面を踏み、ジャンプ台から飛び出しても気を抜かずに踏み続けるイメージが大切」。この感覚を体に染み込ませるために繰り返し飛び続け、「ダメな部分が減ってきた」と手応えを口にする。昨季の2月の大会では、60mのK点越えのビッグジャンプに成功。「赤いライン(K点)に近づくと風の音が変わる。先輩から聞いてはいたけれど初めて経験した」と練習の成果が表れ、〝新しい景色〟にたどり着いた。

 冬は大会が続くため、オフシーズンの夏こそ地道なトレーニングがカギ。「厳しいけれど尊敬している」というコーチの下で毎日ランニングを欠かさず、週1回ローラースキーを1時間こなしてきた。「憧れの(渡部)暁斗さん、山本涼太さんのようにW杯に出場して勝ちたい」という目標を見据えつつ、その先にさらなるビジョンも描く。「社会貢献だったり、(竹内)択さんのようにジャンプの普及活動などにも取り組んでジャンプを誰でも気軽にできるスポーツにして、サマージャンプを夏の五輪種目にしたい。そのためにはしっかり結果を残していかないと説得力がない」。そう語る笑顔からは大人っぽさものぞく。

【PROFILE】
糸氏琉人
2007年、白馬村生まれ。小学2年生でスキージャンプを初めて体験し、3年生から白馬村スキークラブでジャンプを始める。白馬中2年時の県大会でノルディック複合優勝、今季は2連覇を目指す。休日はサイクリングでリフレッシュ。厳しい合宿後に大好物のアイスクリームを〝ご褒美〟として食べる。

取材/斉藤茂明