例年以上に長い酷暑が列島を襲った。解放感を求める人々と同じように、長期低迷の出口を渇望していたJ3のA C長野パルセイロ・サポーターに激震が走った。完敗した第24節の奈良戦(8月26日)後、成績不振によりシュタルフ悠紀監督(39)の解任が発表された。新指揮官に就いたのは同じJ3の今治を契約解除されたばかりの高木理己氏(45)だった。
熱い志と発信力でサポーターから絶大の人気を誇ったシュタルフ前監督。J1京都のコーチや鳥取の監督を歴任した高木新監督。実は2人には〝接点〞があった。
Jリーグの監督を務めるのに必須なS級ライセンス養成講習会の2018年の同期という間柄。1年間かけて指導論やサッカーへの情熱をぶつけ合い、友情を育んだ。だからこそ、高木新監督は「悠紀(シュタルフ前監督)の掲げた『オレンジの志』を受け継ぎ、体現すれば、必ずはい上がれる」と決意を示した。
ただし、目指す理想は同じでも登り方は異なる。就任直後から選手に強く求めたことは「縦に、前へ行け」。前監督の堅守速攻とは対照的な前線からのハイプレス、ハイラインの攻撃サッカーを掲げた。
理由は明確だ。就任した時点で残り14試合でJ2昇格ライン(2位以内)と勝ち点差11の15位と崖っぷち。「『まずはJ3残留』と考えるのが普通。それでもJ2昇格を狙うならば守備重視ではなく、リスクを冒す戦いを貫くしかない」。
鬼気迫るような覚悟が選手たちの闘志に火を付ける。初陣となった第25節の愛媛戦(9月2日)。前半12分に一瞬の隙を突かれて先制を許したが、これまでのように下を向く姿はなかった。首位相手に猛烈なプレスを仕掛けて流れを引き寄せ、同33分に「前へ」を体現する縦パスから左サイドを崩し、佐藤裕太の同点弾で引き分け。続く第26節(9月9日)は直近8戦無敗だった絶好調の福島に対し、またも佐藤が先制ゴールを奪って1―0で勝ち切った。
前監督の解任で最もショックを受けた一人が、YS横浜時代から指導を受けた佐藤だ。「(解任は)苦しかった」と明かす一方、「理己さん(高木監督)は『前から行く』ことに軸を置いた上で選手たちの判断に任せてくれる。その中で、悠紀さんに教えてもらったことも表現しながらプレーすれば、理己さんの求めることにも合致する」と確かな手応えを語った。
とはいえ、そう簡単に物事は運ばない。2連勝を狙った第27節の今治戦(9月16日)は、序盤に安易なファウルで退場者を出したことが響き、0―2で敗れた。選手たちは勝利への気迫を取り戻しつつあるが、勝負を分ける〝一瞬の隙〞はまだまだ散見される。
古巣の今治に敗れた直後の記者会見。高木監督は直近8戦負けなしの4位(当時)につけながら解任され、A C長野で指揮を執る思いを語った。「今治から学んだことは『明日はない』ということ。だから、明日どうなっても良いように、長野では、このメンバー、この戦いでベストだと言い切れる人生にしたい」。新指揮官の覚悟をチーム全員で共有すること。それが〝奇跡〞の大逆転劇を引き寄せるための必須条件になる。
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