「我々は常に挑戦者。圧倒的に力があるわけではないので、カメレオン戦法ではないが、いろいろと駆使して選手の特徴を出しながら今後もやっていく」
開幕戦後の記者会見で名波浩監督が口にした通り、今季の松本山雅FCは自在に色を変えながら勝ち点を積み上げている。
象徴的なのは陣形で、3バックと4バックを状況によって使い分け。ゲーム中に組み替える試合も大半を占めており、相手の特徴を消しながら自分たちの強みを出して上位戦線に食らい付いている。
藤枝MYFCとの試合は、それがピタリとはまった。4-4-2でスタートしたものの、前半途中に3-4-2-1に変更。相手の出方が事前の分析とは異なっていたため、それに対応する狙いだった。
すると守備の歯車が噛み合い、藤枝の攻撃を封殺。ボールこそ持たれるもののほとんどシュートを打たせず、2-0の完勝を引き寄せた。「3バックにしてから守備が安定して、崩されるシーンやピンチもそこまでなかったので、全員で声をかけながら安定した守備ができた」。大卒ルーキー住田将はそう振り返る。
試合中に変更するのも当たり前になり、選手たちはすんなり適応した。例えば最終ラインを統率する若きディフェンスリーダー・大野佑哉は藤枝戦の後、「日頃の練習から3バックも4バックも両方練習しているし、キャンプから約半年やってきていることなので、連係も一人ひとりわかってスムーズにできていると思う」と頼もしいコメントを残している。
変幻自在に組み替えられる理由の一つに、万能型のプレーヤーが複数いることが挙げられる。代表格が前貴之と下川陽太だ。クレバーな前は左右のサイドバックとウイングバックだけでなくボランチやセンターバックも務める。下川も左右を問わずサイドを任されるし、時には3バックの一角に入ることも。このほか宮部大己、安東輝、住田将など複数ポジションをこなす選手は多い。
従来の山雅は2012年のJリーグ参入以来、伝統的に3バックを軸としてきた。昨季はチーム編成段階から4バックの本格導入を意図したものの、自分たちのものにし切れず3バックに回帰してきた経緯がある。しかし今季の山雅は、4バックを選択肢の一つとして体得しつつある段階。実際に現時点で消化した13試合のうち4バックでスタートしたのが7試合、3バックが6試合となっている。
自在に形を変えながらも、「自分たちのスタンス」は明確に持っている。最大のキーワードは「前選択」。ゴール方向へ前進することを第一義とし、そこからプレーをチョイスしていく。その結果としての現象がショートパスであれロングボールであれ、根本にある哲学は不変。山雅の「原点」とも呼べる前方へのアグレッシブさを出しながら、熾烈なリーグ戦を勝ち抜いていく。
取材/大枝令