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【小林あか里:マウンテンバイク】 母の背中を追い続け       笑顔で目指す五輪舞台

パリ五輪の出場枠を逃したとき、涙とともにあふれたのは母への敬意だった。
小林あか里、23歳。母は1996年アトランタ五輪MTB女子代表の谷川可奈子。3歳で初めて自転車に乗り、文字通り母の背中を追いかけてきた。
「いつかあの人を追い越すんだ」

同じMTB選手としてひたむきに走り続け、2022年、23年の全日本選手権を連覇。22年にはアジア選手権も制覇し、いよいよ念願の五輪出場に手が届くはずだった。
母について「オリンピックに出ただけじゃん、と思っていた」と苦笑しつつ明かす。母をほめられるたび「私のお母さん、メダル取ってないよ」と首をかしげていた。オリンピアンの存在があまりに身近で、「スポーツをやっているなら五輪に出て当たり前」と感じていた時期もあったのだという。
目の前に見えていたパリ五輪出場がかなわず、その価値観は覆された。出場国枠を懸けた昨年10月のアジア選手権で6位。中国勢が上位を総なめにする結果に頬を濡らした。その後に世界選手権ランキングから女子のみ1枠が与えられたが、射止めたのはライバルの川口うららだった。
「オリンピックという舞台にたどり着くために、戦術や周りのサポート、運も含めて実力のうち」。そう実感し、悔しさに涙が枯れるほど泣きながら、「それを突破した母は本当にすごい」と気がついた。

尊敬の念は生まれたが、超えるべき存在であることに変わりはない。母に憧れたことは「ない」と言い切り、「一番のライバル」と力を込める。負けず嫌いな性格も相まって「早くこの人より前を走ろう」と闘志を燃やし続けた。「負けるのがとにかく嫌だった」と足を動かすうち、気付けば日本のトップを走っていた。
母に追い付けず練習を投げ出して帰った日のように、負けると投げやりになってしまう性格に悩んだ日々もある。コロナ禍でレース中止が相次ぎ、目標を見失った。その後のスイス合宿では各国の猛者に圧倒され自信を喪失。「何のために走っているんだろう」と悩む気持ちを救ったのは、「もっと楽しめばいいのに」というメンタルコーチの一言だ。

「勝ち負けにこだわらず『つらくても楽しもう』と思えればいい。そうすると身体も動き出して、気付いたらトップを走っている」。どんなに苦しくても、「楽しい」という思いが伝わる走りを見せていく心づもりで、「何があっても笑顔でフィニッシュすることを忘れずにいたい」と話す。7月7日には第37回全日本選手権XCOで連覇を達成。4年後の五輪・ロサンゼルスの舞台に立つべく、険しい道も笑顔で走り抜く。


小林 あか里(こばやし・あかり)
マウンテンバイク
2001年4月10日生まれ、安曇野市出身。信州大学在学中。弱虫ペダルサイクリングチーム所属。母はアトランタ五輪MTB日本代表で全日本選手権・アジア選手権覇者、MTBクラブ安曇野主宰の小林可奈子(旧姓:谷川)。父もMTB選手で、両親とともに幼少期から自転車に親しむ。2022年アジア選手権女子U23優勝、23年全日本選手権MTB・RRともに優勝。24年1月の全日本選手権はCXも優勝し3冠を達成した。

取材/佐藤春香