ポテンシャルは、顕在させて初めて意味がある。松本山雅FCは厳しい風雪に耐え、ようやく開花の時を迎えようとしているのかもしれない。第15節FC今治戦から、陣形を4ー3ー3に変えるなど変化を施しての戦い。2試合連続で4ー0の勝利を収めるなど、目覚ましい活躍ぶりが光る。
攻守のメリットを最大限に押し出す陣形変更。コンパクトな陣形を保ち、相手の嫌がるエリアにボールを差し込んでいく。初披露となった今治戦こそ1ー2と苦い逆転負けを喫したものの、続くガイナーレ鳥取戦、アスルクラロ沼津戦はともに4ー0。攻守の歯車ががっちりと噛み合い、特に2位沼津を圧倒した第17節は見事だった。
「システム上のメリットが出ている。複数得点を取れたのは大きな収穫」。鳥取戦を終えた後、FW安藤翼は充実した口ぶりで話した。前線に従来より多い3人がいることなどから、カウンターが効きやすい。実際に2試合連続でロングカウンターからゴール。以前はほとんど見られなかった現象だ。
中盤は3人と1人減。しかし山本康裕、菊井悠介、米原秀亮ら3ボランチはキープ力と視野、キック精度を兼備するため、攻撃の展開はお手のものだ。中盤がタクトを振り、活発な3トップに左右サイドバックも絡みながら相手守備を突き崩す。エース浅川隼人は沼津戦で2ゴール。「前半戦で2桁得点に乗せたい」とさらなる高みを見据える。
左右サイドバックも得点に関与し始めた。左の山本龍平は鳥取、沼津の2試合で1ゴール2アシスト。得意の左足クロスでゴールを演出するだけでなく、プロ初となる直接FK弾も決めた。それでも現状に満足せず、「この勢いを止めず、1アシストではなくて2アシストくらいできれば」と貪欲さをにじませる。
右の樋口大輝も、沼津戦は1ゴール1アシスト。173cmと上背はないもののヘディングが強く、開幕戦以来16試合ぶりのゴールを挙げた。塩尻市出身で山雅Uー18に所属した大卒ルーキー。「ここで結果を出さなければいけない立場。もっと結果にこだわって、これを続けていきたい」と力を込める。
オーダーメイドの新たなドレスを身にまとい、結果を出し始めた山雅。GK大内一生、DF常田克人、DF宮部大己らは気迫のプレーでゴールに鍵をかけ、右肩上がりの時代に原動力となった「堅守」の片鱗も見えてきた。実際に霜田正浩監督は大量4得点よりも無失点を喜び、沼津戦後は「集中力の強度を最後まで保てた」と口にした。
快勝続きにもチームは浮かれず、自省的に課題と向き合う。キャプテンの菊井は「僕が気を引き締めさせるような必要性もなさそうなので、しっかりまた準備していいゲームをしたい」。高水準の日常を繰り返し、ありったけの白星をかき集めるのみだ。
取材/大枝令