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信州ダービー、ワンチーム体現して2連勝

期待を超えると感動が生まれるというが、2度も超えたAC長野パルセイロサポーターはどんな心境だろう。松本山雅と激突した「信州ダービー」。AC長野は天皇杯の切符を懸けた5月7日県選手権決勝(サンプロ アルウィン)、同13日のJ3第10節(長野Uスタジアム)で宿敵から2連勝をつかむ〝快挙〟をやってのけた。

 第1ラウンドの県選手権は厳しい条件だった。J3のアウェイ岩手戦から中3日。主力の疲労を考慮し、シュタルフ悠紀監督は先発の大半に出場機会の少ないメンバーを抜擢。それでも、ほぼ主力で臨んだ松本山雅に対し、リーグ戦でくすぶっていたアタッカー山中麗央(千曲市出身)らが奮闘し、試合は1―1のままPK戦へ。
 そしてドラマが生まれる。松本山雅の2人目が失敗し、4―4で迎えたAC長野の最後のキッカーに指名されたのは昨季終了後に松本山雅から戦力外通告を受けたDF大野佑哉。「重圧で萎縮する選手もいれば集中力を発揮する選手もいる。大野なら乗り越えられると思った」(シュタルフ監督)。思い出の地、アルウィンで松本山雅サポーターから大ブーイングを浴びた大野だが、「それを黙らせるためにここに来た。最後に自分が決めることが最高のストーリーだと思った」とゴールの真ん中に蹴り込み、公式戦で松本山雅から15年ぶりの勝利をつかんだ。

 ドラマは終わらない。この勝利をスタンドから見つめた主将の秋山拓也は「自分たち(主力)も負けていられない。あの勝利でチームの一体感がより強くなった」と強調。舞台をJ3に移しての決戦は、その言葉を体現するように躍動した。

 雪辱を期す松本山雅に対し、AC長野は満を持してベストメンバー。序盤から球際の強さで圧倒すると前半32分、左CKのサインプレーからのクロスを秋山が「信じて飛び込んだ」と頭で決めて先制。後半34分にはFW山本大貴が追加点を奪い、2―1で押し切った。

 ライバル対決と銘打たれていても両クラブには大きな力の差がある。J1まで到達した松本山雅は資金力、集客力でAC長野を圧倒。さらに、かつて松本山雅に在籍したAC長野の宮阪政樹が「松本にいた頃は、パルセイロに負けるわけがないと思っていた」と語るように、心理的にも格差が生まれていた。

 だが、AC長野はその差を覆す大きな力を生み出した。出番に飢えたメンバーや古巣への雪辱に燃えた大野の反骨心、その勇姿から生まれたチームの結束、クラブを信じ続けたサポーターの声援…。全てを結集した力こそ、指揮官が掲げる「ワンチーム」であり、信州ダービーの歴史に新たな1ページを刻む原動力になった。

 「(松本山雅に勝つことは)小さなミラクル。シーズンは山あり谷あり。みんなで乗り越えていくことで大きなミラクルにつながる」とシュタルフ監督。次の信州ダービーは10月。〝3度目のミラクル〟をつかんだ時、悲願のJ2昇格は目前にあるかもしれない。