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信州サッカーの両雄、11年ぶりに激突!!

KING of 信州は山雅 全ての面で圧倒せよ

【コールリーダーインタビュー】

「絶対に落とせない――の一心。引き分けさえも許せない。結果だけを求めたい」
 11年ぶりに迎える信州ダービーを前に、松本山雅FCのコールリーダー・新関孝典はそう語気を強めた。自身は地域リーグ時代から山雅のサポーター。クラブが描く右肩上がりの物語に身を浸しながら、多くの喜怒哀楽をともにしてきた。
 だからこそ、言えることがある。山雅は長野より先んじてJFL、Jリーグと昇格。その過程において、多くの物語を共有してきた。2011年には元日本代表DF・松田直樹さんが急逝。その年に悲願のJ2昇格。2012年からは北京五輪日本代表を率いた反町康治監督が就き、戦う集団にまとめ上げて二度のJ1を経験した。
 名古屋に挑んだ2015年のJ1開幕戦には、豊田スタジアムに約1万人もの大サポーターが集結。3-3の撃ち合いを演じた。19年のJ1ではイニエスタ擁する神戸、フェルナンドトーレス擁する鳥栖にそれぞれホームで勝利。アウェイでは浦和に逆転勝ちし、スタジアムを沈黙させた。
 「こっちはJ1も経験したけど、向こうはJ3のまま。見えてくる景色の違いもあったと思うし、経験値が違う」。新関はそう語る。確かにその時期、長野との対戦を思い描いていた人間がどれだけいるだろうか。山雅は信州において、誰もが認めるフットボールのトップランナーであり続けた。
 でも――と、新関は続ける。だからと言って決して、かつてこめかみを熱くヒリつかせたダービーの熱を忘れたわけではない。「負けられない戦いであることに変わりはない。当時から、山雅は長野とは違うカラーで進めていて当事者意識が強かった。それは松本が誇れる部分で、当時から松本は松本らしい選択をしていた」。それを再び、呼び起こす。12番目の選手として、誇りを胸に自らのフィールドに立つ。
 「動員をはじめとして、演出も、弾幕1枚ですら負けたくない。今まで経験したことをつぎ込んで圧倒したい。少なくともスタンドでできることはやり抜きたい。それにピッチが呼応する」。そう語る口調は熱を帯びる。
 青写真がある。まずは“前哨戦”となる5月8日の天皇杯県予選決勝。長野を下し、堂々と横断幕を掲げるのだ。ダービーの際にしか掲出されないそれには、「KING of 信州」と大書されている。「県予選を取って、まずアウェイに乗り込む。向こうも初めての人がいると思うから、寝返る人がいてもいい。松本いいじゃない?って」。忘れかけていたなら、思い出させればいい。知らなければ、知らしめればいい。「俺らが信州」であることを。

取材/大枝令

俺たちが長野 新たな歴史を切り拓く

【コールリーダーインタビュー】

「続編」ではなく「新章」だ。AC長野パルセイロのコールリーダーを務める徳永就大は、ゴール裏で迎える初のダービーに闘志を燃やしている。
 南長野に足を運び始めたのは、父の影響だった。当初はゴール裏に行くことはなく、ボランティアスタッフとして携わることもあったという。大学は東京に行き、一時的に応援から離れた。だが、「地元のチームに関わりたいとずっと考えていた」。2012年の開幕前、長野駅前でのビラ配りをきっかけにゴール裏が主戦場へ。そして2018年、5代目のコールリーダーに就任した。
 最も記憶に残るダービーは、2008年の北信越リーグ最終節。要田勇一が決勝点を挙げ、ホームで1-0と競り勝った。2011年には天皇杯長野県予選決勝で“最後のダービー”も経験している。だが、その熱気をゴール裏で味わったことはなかった。
 長野は2012年から、J1やJ2で戦う松本を見上げていた。それは徳永自身も同じだったが、年月を重ねる中で「山雅に負けたくない、パルセイロを勝たせたいという思いがさらに強くなった」という。しかし、チームは再三にわたってJ2昇格を逃し、松本に手が届かなかった。
 迎えた今季、両者はJ3という舞台で11年ぶりに再会することとなった。徳永は「上でやりたかった」と本音を漏らしつつ、「どのカテゴリーだろうと同じ県のクラブには負けられない」と闘志を燃やす。
 以前の熱気を肌で知るサポーターは、さほど多くはないかもしれない。ましてや徳永自身もゴール裏では初めてだ。「どういう雰囲気になるかはわからないが、とにかくバチバチしたい。ここからダービーを積み重ねていくことで、対抗心をみんなで作っていければ」。この試合を機に、新たなダービーの歴史を紡ぐ構えだ。
期待する選手は山本大貴。2016年から3年間松本に在籍していたが、「今は仲間だから…」と笑みを浮かべる。『長野をオレンジに』と旗を上げるシュタルフ悠紀リヒャルト監督にも「長野の市民性や地域性をすごく捉えてくれている。一緒に頑張りたい」と共闘を誓う。一方、松本の三浦文丈ヘッドコーチは2016年に長野を指揮。かつてのボスを前に「絶対に負けたくない」と語気を強める。
 松本には「俺らが信州」というチャントがある。だが、徳永から言わせれば「俺たちが長野」であり、だからこそ『信州ダービー』とは呼ばない。「この試合を通して、サポーターにはクラブをもっと愛してほしいし、郷土愛を深めるきっかけにもなればうれしい」。2022年5月15日。長野Uスタジアムをオレンジに染め上げ、勝利をつかみ取る。

取材/田中紘夢