医療コラム

人間万事塞翁が馬 vol.37     成長痛

「最近、子どもの靴のサイズが急に大きくなってきた」という経験をされた保護者の方も多いのではないでしょうか。これは、体が子どもから大人へと急速に変化していく「成長スパート」と呼ばれる時期に見られる特徴的な身体の変化のひとつです。 身体の大きさは骨の成長とともに変化し、骨の両端にある骨端線(こったんせん)(成長軟骨板(せいちょうなんこつばん))と呼ばれる軟骨の層が、次第に硬い骨に置き換わることによって伸びていきます。しかし、骨の成長はすべて同じタイミングで起こるわけではなく、最初に末端の骨、すなわち手足の指や膝より下のすねの骨から伸び始め、その後に太もも、骨盤、体幹と中心部へと進んでいきます。これは「末端優位の成長」と呼ばれ、足のサイズが急に大きくなったのは、実は成長スパートの始まりを知らせる合図でもあったのです。
 一方で、骨の成長に対し筋肉や腱の柔軟性はすぐには追いつかず、成長期にはスポーツなど体の動きによって様々な痛みが生じることがあります。骨の腱付着部には過度な牽引力(けんいんりょく)が生じやすく、特に太もも前面にある大腿四頭筋(だいたいしとうきん)は、股関節と膝関節の両方を動かす「二関節筋」で、筋肉の両端は骨盤とすねの骨にくっついています。両端が成長のタイミングが異なる骨にくっついているため、成長期には筋肉の収縮によって牽引力がさらに強まり、大腿四頭筋の付着部である脛骨粗面(けいこつそめん)に炎症や痛みを起こします。これが「オスグッド・シュラッター病」です図1)。そして、同じメカニズムで大腿四頭筋が付着する骨盤側にも大きな牽引力がかかっており、筋肉の引っ張る力に耐えられず骨の一部が引き離されてしまう「裂離骨折(れつりこっせつ)」が発症することもあります図2)。骨盤には大腿四頭筋だけでなく、ハムストリングスや縫工筋など複数の筋が付着していて、これらの付着部でも同様の裂離骨折が起こることがあります。サッカーや陸上競技など、走る・蹴るといった動作が多いスポーツで起こりやすく、初期には筋肉痛に似た違和感や動作時の痛みが主症状ですが、無理を続けるとズキっと強い痛みが生じ、骨折が生じてしまいます。

【図1】

【図2】
 このようなスポーツ障害は、骨の成長と筋・腱の機能のアンバランスによって起こります。成長期における痛みは必ず原因がありますから、早期の診断と休養、柔軟性の改善、体の使い方の見直しが必要です。
 さらに、思春期は心の面でも揺れ動きやすい時期です。部活動や学校生活、人間関係の中で、無意識にプレッシャーや不安を抱えていることもあります。Mrs. GREEN APPLEの『ダンスホール』の歌詞に、「メンタルも成長痛を起こすでしょう」という印象的なフレーズがありますが、心と体の両面でサポートが求められる時期でもあります。子どもが「痛い」と口にしたとき、その背景には単なる身体の不調だけでなく、無理を重ねてきた心理的な負荷があるかもしれません。適切な運動量の調整や、ストレッチ、体の使い方の見直しとともに、専門医の評価を受けることも大切です。私たち大人がそのサインに早く気づき、理解を示すことで、子どもたちは安心して成長し、長くスポーツに取り組むことができるのです。

図1)13歳 サッカー選手 左オスグッドシュラッター病   脛骨粗面(けいこつそめん)の隆起
図2)12歳 陸上選手 右下前腸骨棘裂離骨折(みぎかぜんちょうこつきょくれつこっせつ) 
   大腿四頭筋の腱付着部の裂離

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▶PROFILE
百瀬 能成
一般社団法人MOSC 百瀬整形外科スポーツクリニックの院長。
スポーツの世界に「Player’s first(プレイヤーズ・ファースト)」という言葉があるように、患者様を第一に考える「Patients’s first(ペイシェント・ファースト)」を理念として、スポーツ傷害や整形外科疾患の治療にあたる。
松本山雅FCチームドクター。医学博士