医療コラム

人間万事塞翁が馬 vol.30 サポーター

サッカーの世界では、チームやクラブを応援する人々を「サポーター」と呼びます。サポーターはチームを勝利へ導くために選手を鼓舞し、チャントと呼ばれる応援歌や大きな声援によって選手達のプレーを後押ししてくれます。サポーターの存在は選手達の大きなモチベーションとなり、それによって高いパフォーマンスを発揮することができます。スポーツの世界は、チームや選手を「支えて」くれるたくさんの人々で成り立っています。

私が専門とする整形外科でも「サポーター」という単語がよく使われます。これは痛みのある部位を保護するために「患部を支える」装具の意味ですが、サポーターやテーピング、コルセットなどの外固定材料は、スポーツによるケガの治療や予防によく用いられています。サポーターはケガをした関節や筋肉を保護し、応急処置的に患部を固定することで動作時の痛みを和らげることができます。またケガ後のリハビリテーションの際にも、患部へ過度な負荷がかからないよう、ケガの程度に応じて一定期間使用することもあります。スポーツ現場では膝や腰、足首、手首など、運動動作によって繰り返し負担がかかる部位にケガの予防としてサポーターを付けていることが多く、さらに慢性的な痛みを抱えている場合には、普段の生活で常用している人が少なからずいます。

サポーターやテーピングなどの外固定材が有効とされるのは、患部を保護したいときと、ケガの予防をしたいときです。例えば、足関節の捻挫や靭帯損傷では、受傷直後や回復早期にサポーターを装着することで、患部が保護され関節への負荷が軽減されるため、多少の痛みがあってもスポーツ活動を継続することができます。ケガをしたまま試合に出なければならないとき、トレーニングを継続しなければならないときには、一時的に外固定を行うことで早期のスポーツ復帰も可能となります。また、ケガからの復帰後にサポーターを装着することでも、再発予防に効果を発揮します。ケガには受傷後早期から患部へ「最適な負荷」を与えることで治癒が促進されることは以前のコラムでも述べてきましたが、サポーターやテーピングをうまく利用すれば、ケガ後のトレーニングも効率よく行えるはずです。

一方で、外固定を正しく使用しないことで生じる弊害もあります。外固定を長期間行うことは、スポーツ活動中に使うべき筋肉や関節機能を失うことになり、本来関節は自分の筋肉やバランス機能によって正しく支えられなければならないのに、長い間サポーターに頼ってしまったことで使うべき筋力は衰え、関節の可動域が制限され、いつまでも痛みが残っているということがあります。またサポーターによって得られる一時的な「安心感」が、使い慣れてしまうと「サポーターがないと不安」という心理的依存が生じ、ケガから十分回復しているのに、サポーターなしでは痛みを感じてプレーができず、パフォーマンスを発揮できないという心理的問題が生じることもあるのです。

サポーターの使用はケガのリスクが高い状況やリハビリの一環として短期間使用する場合には非常に効果的ですが、あくまで一時的、補助的なものであり、決して根本的な解決策ではありません。ケガや痛みを克服するためには、「支える力」をうまく使いながら、リハビリやトレーニングによって本来の身体機能を取り戻すことが大切です。長期間にわたる漫然とした使用は絶対に避け、必要なタイミングで必要な期間、専門家と相談しながら使うことをお勧めします。

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▶PROFILE
百瀬 能成
一般社団法人MOSC 百瀬整形外科スポーツクリニックの院長。
スポーツの世界に「Player’s first(プレイヤーズ・ファースト)」という言葉があるように、患者様を第一に考える「Patients’s first(ペイシェント・ファースト)」を理念として、スポーツ傷害や整形外科疾患の治療にあたる。
松本山雅FCチームドクター。医学博士