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中断期間でパワーアップ     ラストスパートへ

大逆転のJ2昇格へ、準備は整った。
 松本山雅FCは3週間のJ3中断期間中、フィジカルとテクニックの向上に焦点を当ててトレーニング。酷暑下で連日の2部練習を行うなどハードに追い込みつつ、並行してスキルアップも図った。ボールを握る時間を増やしつつ、90分間を走り切って勝つためだ。

 それが実ったのが、8月17日の第24節・SC相模原戦だった。2ー2で迎えた90+5分の最終盤。自陣深くでボールを奪ってからロングカウンターを発動した。疲労はピークに達する時間帯。それでも菊井悠介、安永玲央、浅川隼人、村越凱光、中村仁郎がフルスプリントで敵陣へ向かう。5対3と数的優位のカウンターを最後は村越が仕留め、サンプロ アルウィンを緑色の劇場に変えた。

 「かなりキツかった」と苦笑交じりに振り返るのは安永。自身はボランチで先発し、攻守に奔走していた。このシーンもペナルティエリア付近で自らが奪って菊井に預けると、ヘッドダウンしながら必死に脚を動かした。

 このスプリントに刺激を受けたのが、途中出場で殊勲の勝ち越し弾を決めた村越。「僕の前を(安永)玲央くんが走っていったのを見た。僕は十分体力があるので、確実にゴール前に入っていけると思った。自分の最大出力を出して飛び込んでいった」。課題だったファーストタッチを思い通りの場所に決め、冷静に対角を射抜いた。

 試合終盤にも迫力満点のカウンターを打てるだけの走力に加え、ボール支配に伴う体力のコントロールも有利に働いたとみられる。ボランチ米原秀亮は「中断前は相手にボールを持たれて守備の時間が長く、80分経ってあそこまで出て行ける選手も少なかった。でも今日は自分たちがボールを持って時間を作った分、あれだけの人数が出ていける体力が残っていたと思う」と分析する。
 フィジカルとテクニック。まさに中断期間中に注力してきた要素が、土壇場の勝ち点3を呼び込んだ。しかもこの試合は中軸を担うベテラン山本康裕が累積警告で出場停止だったほか、直前にトラブルもあり急きょの変更を余儀なくされた一戦。それでも底力を示せたのは、組織としての総合力が高まっているからだろう。

 従来とは一味違う姿を示し、逆転昇格へ一筋の光明を見出した松本山雅。これで今季最長の4試合負けなしとしたが、依然として中位なのは変わらない。「スタートラインに立っただけ。いつも言っているように、勝ち続けないと本当に後がない」と危機感を口にする樋口大輝。目指すべき場所にたどり着くまで、全力疾走の日々は続く。

取材/大枝令