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【赤羽由紘:東京ヤクルトスワローズ】              感謝を日々忘れず 育成から表舞台へ 

7月21日、広島カープ戦。2点を追う九回裏2死一、三塁で打席に立つと、その初球だった。内角低めのスライダーをすくい上げると、左翼ポール際に自身初となるサヨナラの3ラン。前半戦最後の試合を最高の形で締めくくった。
 「(一軍の公式戦での)サヨナラホームランというのは人生で初めてだったので、すごく気持ちが良かった」。お立ち台の上で、喜びを爆発させた。
 赤羽由紘、25歳。
 2020年、育成選手ドラフト2位で東京ヤクルトスワローズに入団。プロ5年目となる今季は春季キャンプから好調を維持し、開幕スタメンに抜擢された。7月5日の中日ドラゴンズ戦でも延長十二回の決勝2ランを含む3打点の活躍。ケガ人の発生もあって得たチャンスを生かしている。
 「本当にこんなチャンスはないと思う。自分としても結果を出したいし、今は必死にもがいている途中」。スタメン定着への強い意欲を語る。

 決して華やかな道のりではなかった。それでも信州の地で力を蓄え、表舞台に至った。松本南シニア時代は「身体も細かったし、打球も外野まで飛ばなかった」。長野日大高で兄も師事した中原英孝監督のいる日本ウェルネスへ1期生として進学し、その指導のもとで徐々に花を開かせていく。
 「バッティングが好きではなかった」と明かすが、高校に入ってから興味を持ち始める。日々の練習や筋トレを重ねていくうちに持ち前の運動神経に身体能力が追いつく。「練習時間はすごく与えられていたのでいい時間だった。高校でホームランを打てるようになり始めて、中学の監督、コーチ、チームメイトはみんなびっくりしていた」と笑顔で振り返る。高校3年時は夏の県予選でベスト8まで導いた。
 卒業後はBCリーグの信濃グランセローズに入団。「僕を知っている周りの人たちがすごく応援してくれているから、頑張ろうという気持ちでやっていた」という。2年目の2020年、育成ドラフト2位で東京ヤクルトから指名。いわゆる野球のエリート街道を走ってきたわけではない。「変にプライドがなかった」と下から一歩ずつ、周りの後押しを受けて着実に進めてきた歩みがここまで押し上げてきた。

 長野県での野球生活を振り返ると「小学校から中学、高校、独立リーグも含めてすごくいい方々と出会わせてもらった。自分を成長させてくれた方々と出会えたことが一番大きい」。あくまで自分自身ではなく、周りの人たちが道を照らしてくれたと話す。
 今では走・攻・守の3拍子が揃ったユーティリティープレイヤーとしてチームを支える。内外野を柔軟にこなし、堅実な守備で信頼を勝ち取る。
 信州で野球に打ち込む子どもたちへ――と水を向けると、「どこで急に成長するかは本人も周りの人もわからない。日々の積み重ねが大事だと思うので、諦めずにやっていってほしい」と語る。

 実際に9番を打っていた中学生が、今はプロの舞台で脚光を浴びる。「本当に運が良かった」と謙遜する赤羽。ただしその運を掴んだのは、感謝を忘れずに一歩ずつ歩み続けた結果に他ならない。

Profile赤羽 由紘(あかはね・よしひろ)
野球選手
2000年6月29日生まれ。長野県松本市出身。寿ヤングバードで野球を始め、中学時代は松本南シニアでプレー。日本ウェルネス信州筑北(現日本ウェルネス長野)高卒業後はBCリーグの信濃グランセローズに入団。2020年に東京ヤクルトから育成指名を受け、22年に支配下登録された。内外野を守れるユーティリティープレイヤーとして年々出場機会を増やしている。右投げ右打ち。176cm、83kg。

取材/大枝史