「スキージャンプの楽しさは、長距離を飛んでいる時に感じる風の爽快感。ポイントが出て、優勝が決まった瞬間の喜びは言葉にできない」
時速80kmを超える滑走から大空へと飛び立つ競技に魅了された西澤希陸は、目を輝かせながらそう語る。
きっかけは小学3年生の冬。白馬で開催された世界大会の観戦だった。それまで続けていた野球から一転、スキージャンプの世界に飛び込んだ。「始めて1年目くらいまでは怖さもあったけれど、続けることで恐怖心はなくなり、 今は楽しさの方が勝っている」と話す。
その才能は早くから開花した。小学6年生で第55回栂池ノルディック大会スペシャルジャンプを制すると、中学でも快進撃が続く。1年生で全国中学校体育大会2位、2年生で初優勝を飾ると、3年生でも連覇を達成した。
頭角を現した逸材は、ノルディック複合男子の渡部兄弟やフリースタイル(モーグル)女子の上村愛子など、数多くの五輪選手を輩出してきた名門・白馬高スキー部の門を叩いた。
現在は佐藤友紀監督の指導のもと、週6日の練習に励む。週末は白馬ジャンプ競技場での実戦練習、平日は体幹やウェイトトレーニングといった陸上トレーニングを重ねる。「数あるトレーニングの中でも体幹トレーニングが一番キツい」と西澤。「時速80km以上の中でも姿勢を維持できるように体幹を強化していきたい」と意欲を見せる。
しかし、順風満帆だった競技人生にも壁が立ちはだかっていた。「中学ではとんとん拍子で進んできたが、今年はそれにブレーキがかかっている状況」と佐藤監督。昨年12月の第55回名寄ピヤシリジャンプ大会では、目標の30位以内に対し51位と振るわなかった。
だからこそ佐藤監督は「逆に言うと、今年の経験が次につながるステップになる。今までの経験からすればどん底といえる状況。それを生かすかどうかは本人次第」と期待を込める。「センスの良さは感じるものの、現在はアプローチの姿勢を改善することが課題。そのためにはバランスをとれるようにすることが最も大事」という監督の分析に、西澤も必死に応えようとしている。
冬季五輪や世界大会出場を将来的な目標に据える西澤。今季は世界ジュニア選手権への出場はかなわなかったが、「来シーズンは世界ジュニア出場が目標」と力強く語る。まずは1月の長野県高等学校スキー大会での優勝を目指す。「試合に臨む時は楽しむことが大事。調子が悪かったり、落ち込んでいたりするとジャンプにも影響してしまう」。その言葉通り、困難を乗り越え、再び大空へと羽ばたこうとしている。
Profile 西澤希陸(にしざわ・りく)
スキージャンプ
2008年5月30日生まれ。大町市出身。白馬高校在学中。小学3年生の時に見た世界大会に感銘を受け、白馬村スキークラブに入ってジャンプ競技を始める。中学2年時に全国中学大会で初優勝を飾り、翌中学3年時には連覇を達成。現在は白馬高で競技に打ち込んでいる。
取材/児玉さつき