2024年9月、イタリア・ローマ――。
長野県の高校に通う田井晴海が、インラインスケートの日本代表選手として、世界の大舞台に挑んだ。父親の影響からアルペンスキーに打ち込み、オフトレーニングとして始めたインラインスケート。今ではその魅力に惹かれており、「自分がこのスポーツを広め、競技の魅力を伝えていきたい」と力を込める。
出合いは小学4年生の時。練習帰りの友人に声をかけて「おもしろそう」と思い体験に行った。その友人というのは、現在アルペンスキーで活躍中の丸山瑛太だった。
転機は昨年。中国でのアジア選手権に日本代表として出場した。惜しくも入賞は逃したものの、ロードレースの100mで9位。「コンマ何秒か速ければ決勝に行けたのに」と悔しさをにじませるが、世界の水準を体感した。さらに、自分の実力が世界で通用することに手ごたえを感じたと言う。
そして今年は大きく飛躍した。4月の全日本トラックレーススピード選手権男子ジュニアの200mと500m+Dでともに2位。6月の全日本ロードレーススピード選手権男子ジュニア100mでも2位に入り、世界選手権への切符を手にした。
現在は池田町の高瀬川河川敷にある競技施設で週3回の練習を行い、月に1〜2度のペースで東京へ通う。「本当なら地元のリンクで練習に励み、大町から世界を目指したい」。競技に打ち込む中で存在を広めたい思いが強くなったといい、「インラインスケートは国内ではまだまだマイナーなスポーツ。東京には大きな大会ができるリンクがあるけれど、長野県にはそういうリンクもない。アルペンスキーのオフトレとして始める子どもはいても、競技人口も少ないのが現実」と明かす。
競技を続けてきたことで、小中学校とともに腕を磨いた柄澤孝太をはじめ、県内外を問わず多くの友人に恵まれたという。
「以前は自分から話しかけることが得意ではなかったけれど、世界大会などに参加させていただいたことで、初めての人とでも物怖じせず話せるようになった」
「心も強くなったように感じる。自分の身の回りの悩みも、世界を知ると『自分はなんて小さなことに悩んでいたんだろう』と思えるようになった」
この競技で「短距離を極めたい」と意気込む田井。照準を当てているのは、来年のアジア大会ロードレース100mでのメダル獲得。「スタートは瞬発力が大事。そのためのトレーニングを積み、好スタートが切れるようなスタートダッシュの爆発力、さらに100mをずっとダッシュできるような体力も付けたい」とさらなる高みを見据えていた。
田井晴海(たい・はるみ)
インラインスケート
2007年10月10日生まれ。大町市出身。白馬高校在学中。ブリザードクラブ所属。父親の影響からアルペンスキーを始め、インラインスケートはアルペンスキーのオフトレーニングとしてスタート。始めて1〜2年で頭角を現し、県内の大会で長野県記録をマーク。2023年には第68回全日本トラックレーススピード選手権大会200mで1位、第19回アジア選手権に出場し、最高で9位を獲得した。
取材/児玉さつき