3月中旬。静まり返った春休みの学舎の中で、池田工業高校の弓道場だけは活気に満ちていた。翌日の練習試合に向けて集まった部員たちの真剣な眼差しが、的を射抜く。
「礼に始まり、礼に終わる」。武道の精神を基本としながら、生涯続けられる競技としての魅力も持つ弓道。顧問の平林裕子教諭自身も高校から弓道を始め、大学、社会人と継続してきた。自身の経験を基に弓道の魅力を伝えることを重視。「弓道は長く続けられる競技。高校を卒業して大学生や社会人になってからも続けたいと感じてもらえるようにしたい」と語る。
その思いは生徒たちにも届いている。中学まで野球をしていた新3年生の鈴木佑真は「先生が丁寧に指導してくださって、最近やっとコツがつかめてきた実感がある。進学希望の大学にも弓道部があるので、続けることを視野に入れている」と話す。
工業高校という環境では、補習や検定に向けての講習などで全員が同時に練習を始めることは難しい。そのため、部員たちは自分のペースで道場を訪れ、主体的に練習に励む。部長の髙山翔威は「日々何十本と引いていて、休むと筋力が落ちて引けなくなってしまうので、毎日練習することを心掛けている」と語り、松下翔も「的に命中させるためには、持久力も大事なので継続が大事」と話す。
同部の強みは、近くに池田町弓道場があることだ。「部活動の後などに町の弓道場へ行くと、一般の方々が丁寧に指導してくださる」と平林教諭。4月に行われる昇級・昇段審査では「座射」の体配での審査があるが、「2段を取得している髙山くんなどは、池田弓道場のみなさんに完成まで指導してもらった印象」だという。
地域の先達から支援を受けながら技を磨く環境は、実績にも表れている。昨年の国民スポーツ大会に酒井大貴が少年男子に県代表として出場し、遠的で全国優勝を射止めた。
先輩の活躍に刺激を受けた部員たちは、さらに高みを目指す。国スポの県代表選考会一次選考を通過した髙山は「酒井先輩が遠的で全国優勝されたので、自分は長野県チームに選ばれて、近的での全国優勝が目標」と意気込む。1年生で初段を取得し、4月には2段を目指す松下も「先輩方から引き方など的に命中させるために必要なことをいろいろ教えてもらった。今後は国スポやインターハイ出場を目指したい」と決意を語る。
【部長 髙山翔威さん】
兄が同じ池田工業高校の弓道部出身で、袴姿で弓を引く姿をカッコいいと思い、弓道部に入りました。昨年、高体連主催の大会では団体で県大会まで進出しましたが、今年は団体、個人ともにインターハイ出場を目指します。
取材・撮影/児玉さつき