日本の伝統武道「弓道」。28メートル先にある的に向けて弓を引き、判定は当たりか外れのみ。シンプルだが奥は深く、少しの射形のブレが矢の行方を左右する繊細さも併せ持つ。「だからこそ、日々の鍛錬と精神的な強さが大切」。磯部敦監督はそう力を込める。
1987年(昭和62年)の創部から36年目となる松本美須々ケ丘高校弓道部。昨年は県総体で男子が団体・個人ともに優勝し、夏のインターハイに出場。団体は決勝トーナメントにまで進出するなど存在感を示した。女子も中信総体で団体・個人ともに3位に入って県大会に出場。男女ともに戦績を残している。
弓道は高校から始める選手が多く、スタート時点では横一線。ではどこで差がつくのか。「単純に練習量」と磯部監督。さらに特徴については「弓道は武道の一環で、当たり外れや勝ち負けだけでなくメンタルが大事。生徒には緊張やプレッシャーへの対応力を学んでほしい。それが社会人になってからも役に立つ」と続ける。インターハイ男子団体で一番手の大前を務めた杉浦悠太も「弓道は練習でも試合でも常に自分と向き合う競技。自分に勝てれば試合にも勝てる。だから、試合では当てることよりも、緊張感も含めて楽しむことを心掛けている」とプレッシャーに対する独自の克服法を見出している。
指導の上で大切していることは「とにかく楽しくやってくれればいい」と磯部監督。そこには「弓道は年齢を重ねても続けられる競技。高校の部活で燃え尽きてしまうのではなく、社会に出て余裕が出たら『またやってみよう』と思ってほしい」との思いも込める。
横澤咲幸部長も「部員とともに和気あいあいとしながらも、高め合える関係を築いていきたい」と抱負を持つ。顧問の指導はもちろん、仲間同士が切磋琢磨できる関係で腕が磨かれた実感があるという。それは主将の杉浦悠太も同様で、「個人でも全国大会へ出場した黒田(隼矢)先輩に教えてもらえたことが自分のためになった」。技術の上達だけでなく、身近に目標となる先輩がいることで、高く感じる全国大会という目標も、よりリアルに実感できるようになったという。
一人4射の合計で競う団体戦でも個の強さが重要となるが、個の力を高めるためには仲間の存在が不可欠。3年生からバトンを託された後輩たちが、今度は自分たちが理想とするチームの形を目指しつつ、新たな目標へと進んでいく。
【横澤 咲幸 部長】
弓道を通して礼儀や感謝の気持ちを学び、1年生の時の新人戦では緊張から自分の力が出せませんでしたが、前回は県大会に出場することができました。来年は女子も県大会を突破して、全国大会出場を目指します。
【杉浦 悠太 主将】
弓道は緊張感やプレッシャーに慣れ、常に冷静でいることが大切だと思っています。今年は全国大会に出場し、大きな舞台を経験することができました。来年はその経験を糧に、個人でも全国大会に出場することが目標です。
取材・撮影/児玉さつき