高校スポーツ

【松本第一高等学校 柔道部】全国常連の名門 公私ともに鍛錬し日々成長

花の雨が道場の窓を叩く3月。7年ぶりに挑んだ「春の武道館」の畳は硬く、分厚かった。全国高等学校柔道選手権大会を初戦で帰還し、インターハイでの雪辱を誓いながら臥薪嘗胆の日々を送る。

 「執念」と書かれた大旗に、額縁に入った表彰状がずらりと道場の壁面を飾る。かつては29年連続で全国大会に出場し、県大会優勝回数は県内最多43回。世界にも通ずる名門・松本第一高校柔道部は、今年も新入生5人を加えた21人が心技体を磨く。
 全寮制で朝は6時から練習に励み、夜22時には携帯を提出して就寝。寮は監督の自宅横に併設され、総監督で先代の津金武寿先生のもと寝食を共にする。食事も監督自宅で供される手厚い指導下に、3年間で20㎏以上の増量を果たす選手も珍しくない。

 「食事や睡眠、生活リズムは本当に重要。強い身体を作るために、生活面でも競い合うようになる」と津金謙太・現監督は目を細める。父である先代から代替わりして8年目。文字通り「ひとまわり」大きく成長する選手たちを、厳しくも暖かい視線で見守る。
家族のような絆を育みながらも、時代の流れとともに「熱血指導」は影を潜めつつある。体罰が問題視される風潮には「言葉ひとつにも気を遣う」と配慮をにじませる。ただ、確かな実績と名指導者の教えを求めて門を叩く学生は絶えない。

 「昔のような『ただ柔道が強ければいい』という風潮はもうない」と津金監督。全国大会レベルを前提としつつ、勝敗にばかり固執するのを善しとはしない。「長い人生の中で、柔道をやっていられる時間はほんのわずか。そこから先の人生で生かせる社会性を身に付けてほしい」。“礼に始まり礼に終わる”と言われる世界で、社会性の基礎となる礼儀を身に付け、精神的なたくましさを育むことにも重きを置く。
 「厳しいけど、柔道が好きでやっているから嫌だと思うことはない」。そう語るのは主将・北原想大選手。5歳から畳に上がり、「ここでしか教わらない礼儀が身に付いた」と自身の成長を振り返る。2022年北信越高校総体優勝と確かな実力を示すエースだ。選手権では個人戦81㎏級に挑み、優勝候補相手に延長戦2分25秒に及ぶ激闘。「技あり」で勝ち星を譲る結果に唇を噛んだ。

 「インターハイでリベンジを」と、主将をはじめ各々が闘志を燃やす姿勢はまさに「執念」。春の雪辱に向け、弛まぬ努力を積み重ねつつ日々邁進する。


【津金 謙太 監督】
組手や寝技をメインに教えるので、「玄人好み」の柔道になっていると思います。直感的な教え方はなるべく無くして、具体的な言葉を使って指導するよう心がけています。

【北原 想大(そうた) 主将】
個人戦全国優勝を目指して松本第一に入学しました。春は不完全燃焼で終わってしまったので、もう一度「挑戦者」の気持ちで中信大会へ臨みたい。インターハイで借りを返します。

取材・撮影/佐藤春香